InPレーザーはなぜAI計算基盤の戦略部品になったのか

CW・DFB型レーザーの断面構造、製造ボトルネック、日本の技術史、関連銘柄まで

AI計算基盤では、GPUやスイッチASICそのものだけでなく、それらを結ぶネットワークの帯域と消費電力が性能を左右するようになった。電気信号を銅配線で遠くまで送るほど損失が増え、SerDes、イコライザー、リタイマーに必要な電力も大きくなる。そのため光変換部をASICの近くへ移すNear-Packaged Optics、Co-Packaged Optics、さらにパッケージ内へ取り込むOptical I/Oが注目されている。

しかし、シリコンフォトニクスは光を導き、分岐し、変調することには適していても、シリコン自体で高効率なレーザー光を作ることは難しい。そこで、通信波長帯で効率よく光を発生できるInP系レーザーが必要になる。Lumentum、Coherent、Broadcomなどは、シリコンフォトニクスやCPOへ連続光を供給する高出力CWレーザーを既に製品群へ組み込んでいる。(Lumentum)

このためInPレーザーは、従来の「光トランシーバーを構成する一部品」から、AIクラスターの帯域を拡張するための戦略部品へ変わりつつある。

1.CW・DFB・InPとは何か

CW――レーザーは光を出し続ける

CWはContinuous Wave、すなわち連続波を意味する。

レーザー自体を高速にオン・オフするのではなく、一定の光を連続的に出し、その後段にあるシリコンフォトニクス変調器が光へ0と1の情報を載せる。

構成はおおむね次のようになる。

電源 ↓ InP CWレーザー ↓ 安定した連続光 シリコンフォトニクス変調器 ↓ データを載せた光 導波路・光ファイバー

この役割分担により、レーザーは高出力、低雑音、波長安定性、長寿命へ特化できる。一方、変調器は高速なデータ変換へ特化できる。

DFB――特定の波長だけを選ぶ

DFBはDistributed Feedback、分布帰還を意味する。

レーザー内部に微細な回折格子を設け、特定の波長だけをレーザー全長にわたって帰還させる。格子が波長を選択するため、通常のFabry–Pérotレーザーより単一波長に近い、安定した光を作りやすい。

選択される波長は概念的にはブラッグ条件で表される。

λB≈2neffΛ{\lambda_{\mathrm{B}}\approx 2n_{\mathrm{eff}}\Lambda}

ここで、

λB=選択される波長{\lambda_{\mathrm{B}}=\text{選択される波長}}
neff=導波路の実効屈折率{n_{\mathrm{eff}}=\text{導波路の実効屈折率}}
Λ=回折格子の周期{\Lambda=\text{回折格子の周期}}

である。

たとえば図にある約240nm周期を使い、実効屈折率を約3.2と仮定すると、

λB≈2×3.2×240≈1536 nm{\lambda_{\mathrm{B}}\approx 2\times 3.2\times 240\approx 1536\ \mathrm{nm}}

となり、1550nm帯に近い。ただし実際の波長は格子次数、材料組成、温度、導波路構造によって変わる。

なぜInPなのか

InPは直接遷移型半導体で、InGaAsPやAlGaInAsなどと組み合わせることで、光通信に使われる1.3~1.55µm帯の発光層を形成できる。InP基板上には、格子整合するInGaAsやInGaAsPなどをエピタキシャル成長できる。(DISCO Technology)

つまり、

InP:基板、クラッド、電流経路

InGaAsP・AlGaInAs:量子井戸、導波路、回折格子

InGaAs:低抵抗コンタクト

という材料分担が可能になる。

図解|CWレーザーの基本

CWレーザーの基本 01

2.CW DFB型InPレーザーの断面を読む

p側電極 ──────────────── p+ InGaAsコンタクト p-InPクラッド InGaAsP回折格子 Upper SCH MQW活性層 Lower SCH n-InPバッファ n-InP基板 ──────────────── n側電極

レーザー光 → 横方向

2-1.n-InP基板

一番下の厚い層がn型InP基板である。

基板には、

結晶成長の土台

機械的支持

n側の電流経路

放熱経路

という役割がある。

基板の転位、不純物、表面粗さ、反り、結晶方位のずれは、その上に作る量子井戸やレーザーの寿命と歩留まりへ影響する。InP基板は単なる支持板ではなく、レーザー性能の出発点である。

2-2.n-InPバッファ層

基板上へ0.5~1µm程度の高品質InP層を成長させる。

この層は、

基板表面の欠陥や凹凸の影響を弱める

上部の精密な活性層を成長しやすくする

n側電流を運ぶ

下側クラッドの一部として光を閉じ込める

役割を持つ。

2-3.Lower SCH

SCHはSeparate Confinement Heterostructure、分離閉じ込めヘテロ構造である。

量子井戸は数nm程度と極めて薄く、それだけではレーザー光全体を保持できない。そのため量子井戸の上下に、より厚いInGaAsP系の光閉じ込め層を設ける。

Lower SCHは、電子を量子井戸へ導くと同時に、光モードを量子井戸周辺へ広く保持する。

2-4.MQW活性層

MQWはMultiple Quantum Well、多重量子井戸である。

図では5~8層程度の歪み量子井戸が描かれている。電子と正孔は薄い井戸層へ閉じ込められ、そこで再結合して光を発生する。

複数量子井戸を使うことで、

光利得を高める

しきい値電流を抑える

発光効率を上げる

発振波長を調整する

高温特性を改善する

ことができる。

「strained wells」は、格子定数をわずかに変えて結晶へ歪みを加えた量子井戸である。歪みによってバンド構造や偏光特性を調整できるが、歪みや層厚が限界を超えると転位が生じる。したがって、組成と厚さをナノメートル単位で制御しなければならない。

2-5.Upper SCH

上側のSCHも、光とキャリアを量子井戸付近へ導く。

上下のSCHは必ずしも対称ではない。回折格子が上側に置かれる場合、光モードの一部が格子へ適切に届くよう、層厚と組成が調整される。

2-6.InGaAsP回折格子

図では約240nm周期の微細な凹凸として描かれている。

これはレーザーの進行方向に沿って並ぶ格子であり、特定の波長を選択する。格子と光モードの重なりが弱すぎれば波長選択性が不足し、強すぎれば散乱損失や光損失が増える。

したがって、

量子井戸では十分な利得を得ながら、格子には必要な量だけ光を触れさせる

という設計が必要になる。

Oxford InstrumentsもInPレーザー製造でDFB格子エッチングを重要工程として挙げ、格子形状とプラズマ加工条件がレーザー性能を左右すると説明している。(Oxford Instruments)

2-7.p-InPクラッド層

上側のp-InPクラッドは、正孔を量子井戸へ送り込むと同時に、中央のInGaAsP系層より低い屈折率を利用して光を閉じ込める。

図にあるZnは、InPをp型化するためのドーパントである。

厚さは1.5~2µm程度と、量子井戸や格子層よりはるかに厚い。

2-8.p+ InGaAsコンタクト

最上部の高濃度p型InGaAs層は、金属電極と半導体の接触抵抗を下げるために使われる。

ここは発光する場所ではなく、電流をレーザー内部へ効率よく流す入口である。

図解|InPレーザー断面の各層

InPレーザー断面の各層 01

InPレーザー断面の各層 02

InPレーザー断面の各層 03

InPレーザー断面の各層 04

InPレーザー断面の各層 05

InPレーザー断面の各層 06

InPレーザー断面の各層 07

InPレーザー断面の各層 08

3.レーザー内部では四種類の「閉じ込め」が同時に働く

量子井戸レーザーというと、電子を薄い層へ閉じ込める構造だけを想像しやすい。しかし実際には、異なる方向と対象に対して複数の閉じ込めが使われる。

閉じ込めるもの構造目的電子・正孔MQW再結合確率と光利得を高める光の上下方向SCH・InPクラッド光が上下へ逃げるのを防ぐ電流と光の横方向リッジ、埋込みヘテロ構造電流集中、単一横モード化発振波長・縦モードDFB回折格子単一波長を選択する

埋込みヘテロ構造、BHでは、MQWを含む活性層を細いメサ状に加工し、その左右をInPで再成長して埋める。これにより、キャリアが横へ逃げるのを抑え、電流と光を狭い領域へ集中させる。

NTTの膜型BH-DFBレーザーでも、InGaAsP量子井戸を形成した後、導波路をエッチングし、InPを再成長して活性領域を埋める工程が使われている。(NTT Technical Review)

CWレーザーが通信のための光を作り、シリコンフォトニクスの光変調器が情報を載せ、光回路が運び、受光器が電気信号へ戻す

図解|キャリアと光の閉じ込め

キャリアと光の閉じ込め 01

キャリアと光の閉じ込め 02

キャリアと光の閉じ込め 03

1.DFB格子とは何か

DFBは、

Distributed Feedback=分布帰還

を意味します。

レーザー内部の導波路に沿って、屈折率が周期的に変化する微細な格子を形成します。

レーザーの進行方向 →

/\/\/\/\/\/\ DFB格子 ━━━━━━━━━━━━━━━━ 光導波路 ────────────── MQW活性層

実際の格子は大きな歯ではなく、約200nm前後の周期を持つ極めて微細な凹凸や屈折率変化です。

DFB格子の役割

半導体レーザー内部では、何もしなければ複数の波長が発振候補になります。

DFB格子は、その中からブラッグ条件を満たす波長を選びます。

λB≈2neffΛ{\lambda_{\mathrm{B}}\approx 2n_{\mathrm{eff}}\Lambda}

ここで、

λB=選択される波長{\lambda_{\mathrm{B}}=\text{選択される波長}}
neff=導波路の実効屈折率{n_{\mathrm{eff}}=\text{導波路の実効屈折率}}
Λ=格子周期{\Lambda=\text{格子周期}}

です。

光が格子の一つ一つでわずかに反射され、その反射が同位相で重なる波長だけが強く帰還されます。

したがって、DFB格子は簡単に言えば、

レーザー内部に埋め込まれた波長選択フィルター兼反射鏡

です。

通常の端面反射との違い

一般的なFabry–Pérotレーザーでは、チップ両端の端面を鏡として光を往復させます。

鏡 | 光が往復 | 鏡

DFBレーザーでは、レーザー全長にわたる格子が少しずつ光を反射します。

小さな反射 × 小さな反射 × 小さな反射 × …

このため、

単一波長にしやすい

温度変化でモードが飛びにくい

WDMに使いやすい

外部変調用の安定光源に向く

という利点があります。

図解|DFB格子の基本

DFB格子の基本 01

DFB格子の基本 02

DFB格子の基本 03

2.DFB格子と光モードの関係

光モードは量子井戸だけに収まっているわけではありません。

MQWを中心としてSCH層まで広がり、さらに上側の裾、エバネッセント成分がDFB格子に届きます。

DFB格子 ∧∧∧∧∧∧∧ ↑ 光モードの裾 / ̄ ̄ ̄ ̄\ SCH / \ MQW ──── 光強度最大 ──── SCH \ / \____/

この重なり具合がDFBの結合係数(\kappa)に影響します。

重なりが弱すぎる

格子による帰還が弱くなり、

波長選択性が不足する

複数モードが競合する

発振が不安定になる

可能性があります。

重なりが強すぎる

格子散乱が増える

内部損失が増える

光出力が低下する

レーザー長方向の出力分布が偏る

可能性があります。

したがって、SCHの厚さや格子の深さを調整し、

量子井戸では十分に増幅しながら、DFB格子には必要量だけ光を触れさせる

必要があります。

図解|DFB格子とモード選択

DFB格子とモード選択 01

DFB格子とモード選択 02

3.BH再成長とは何か

BHは、

Buried Heterostructure=埋込みヘテロ構造

です。

量子井戸を含む発光領域を細い筋状に加工し、その左右をInPなどで再び結晶成長して埋めます。

製造の流れ

最初に、基板上へMQWやSCHなどを成長します。

上部層 SCH MQW SCH InP基板

次に、レーザーとして使う細い部分だけを残して、左右をエッチングします。

活性メサ ┌──┐ ──────────┘ └────────── MQW ──────────────────── 基板

その後、削った左右へInPを再成長します。

再成長InP |活性メサ| 再成長InP ████████ │ MQW │ ████████ ████████ │ │ ████████ ──────────────────── 基板

活性層が周囲のInPに埋め込まれるため、Buried、埋込みと呼ばれます。

図解|BH再成長の工程

BH再成長の工程 01

4.BH構造は何を閉じ込めるのか

BH構造には、主に三つの効果があります。

電流を横方向に閉じ込める

電流が活性領域の左右へ漏れるのを防ぎ、中央のMQWへ集中させます。

電流 ↓ ████ ↓ ████ ████[MQW]████

光を横方向に閉じ込める

活性領域と周囲のInPの屈折率差によって、光が左右へ逃げにくくなります。

SCHとクラッドが上下方向の光閉じ込め、BHが主に横方向の光閉じ込めを担当します。

発熱と表面劣化を抑える

活性層の側面が空気や絶縁膜へ露出せず、結晶性のInPで覆われます。

これにより、

表面再結合を抑える

漏れ電流を減らす

放熱経路を作る

高温動作を安定させる

長期信頼性を高める

ことができます。

高出力CWレーザーでは、電流と熱を狭い発光領域の周囲から効率よく逃がす必要があるため、BH構造は非常に重要です。

図解|BH構造による横方向閉じ込め

BH構造による横方向閉じ込め 01

5.なぜBHの「再成長」が難しいのか

一度結晶成長したウェハーを装置から取り出し、

リソグラフィー

エッチング

レジスト除去

洗浄

を行った後、再びMOCVD装置へ戻します。

この時点で表面には、

自然酸化膜

炭素汚染

水分

エッチング残渣

プラズマ損傷

微粒子

が残りやすくなります。

その上へ高品質な単結晶を再成長しなければなりません。

界面に欠陥ができると、

電子と正孔が光を出さずに消える

漏れ電流が増える

光損失が増える

発熱が増える

寿命が短くなる

可能性があります。

つまりBH再成長は、

一度切った結晶の表面を原子レベルで清浄に戻し、その続きを欠陥なく成長させる工程

です。

ここは装置だけでなく、表面処理と成長レシピの暗黙知が大きい領域です。

図解|BH再成長の欠陥要因

BH再成長の欠陥要因 01

6.シリコンフォトニクスとは何か

シリコンフォトニクスは、シリコン基板上に光回路を作る技術です。

電子回路が、

配線

トランジスタ

スイッチ

メモリ

で電気信号を処理するのに対し、光回路は、

光導波路

光変調器

分岐器

合波器

フィルター

光スイッチ

受光器

で光信号を処理します。

電子回路 光回路

金属配線 光導波路 トランジスタ 光変調器 電気スイッチ 光スイッチ 電気信号の合成 光の合波 電気信号の分離 光の分波

シリコンフォトニクスの利点は、半導体製造技術を利用して、光導波路や変調器を高密度に作れることです。

ただしシリコンは効率よくレーザー発光する材料ではありません。そのため、外部のInPレーザーから光を入れるか、InP系材料をシリコン上へ接合して光源を作ります。

図解|シリコンフォトニクスの役割

シリコンフォトニクスの役割 01

7.光回路の基本構成

典型的な送信側は次のようになります。

電気データ ↓ ドライバー回路 ↓ 光変調器 ← CWレーザーから連続光 ↓ 波長合波器 ↓ 光導波路・光ファイバー

受信側は次のようになります。

光ファイバー ↓ 波長分波器 ↓ フォトダイオード ↓ TIA・受信回路 ↓ 電気データ

つまり、送信では、

電気信号 → 光信号

へ変換します。

受信では、

光信号 → 電気信号

へ戻します。

図解|送受信光回路の構成

送受信光回路の構成 01

8.なぜレーザー光が必要なのか

光回路は光を導いたり変調したりできますが、何もないところから強い光を作ることはできません。

レーザーは光回路に対して、通信に使う光の「材料」を供給します。

レーザー光が適している理由

波長が揃っている

LEDは幅広い波長の光を出します。

レーザーは狭い波長範囲に集中した光を出します。

WDMでは波長ごとに通信路を分けるため、波長が安定したレーザーが必要です。

位相が揃っている

レーザー光はコヒーレントで、光波の位相関係が揃っています。

これは、

高速変調

干渉型変調器

コヒーレント通信

狭い導波路での伝送

に重要です。

指向性が高い

レーザー光は一方向へ集中しやすく、微細な光導波路や光ファイバーへ結合できます。

光密度が高い

小さな断面へ十分な光パワーを入れられます。

変調器や分岐器を通るたびに光損失が発生するため、入口には十分なパワーが必要です。

図解|通信光源に求められる性質

通信光源に求められる性質 01

9.CWレーザーは連続光を出すだけなのか

CPOやシリコンフォトニクスの外部光源として使う場合、基本的にはその理解で合っています。

CWレーザーの主な役割は、

安定した波長、出力、偏光を持つ連続光を供給すること

です。

レーザー光は、まだ情報を持っていません。

たとえるなら、

CWレーザー:真っ白な連続した紙

光変調器:紙に0と1を書く装置

光導波路:紙を運ぶ道

受光器:書かれた内容を電気信号へ読み戻す装置

です。

別のたとえでは、

CWレーザー:放送局の搬送波

変調器:音声や映像を搬送波へ載せる装置

となります。

図解|CW光源と情報変調

CW光源と情報変調 01

10.実際の0と1は誰が作るのか

主に光変調器です。

CW光が変調器へ入ると、電気信号に応じて光の状態を変えます。

最も基本的なのは光の強さを変える方式です。

CW光:──────────────

変調後: 1 0 1 1 0 ━━ ─ ━━ ━━ ─

実際には、

光強度

位相

周波数

偏光

などを変えられます。

データセンターの短距離通信では、光強度を複数段階に変えるPAM4などがよく使われます。

図解|変調器が作るデジタル信号

変調器が作るデジタル信号 01

11.光変調器はどのように光を変えるのか

シリコンフォトニクスでは、主に次のような変調器が使われます。

Mach–Zehnder変調器

光を二つの経路へ分け、一方または両方の位相を電気信号で変え、最後に再合成します。

┌── 位相を変える ──┐ CW光 ─ 分岐 合流 ─ 変調光 └── 基準経路 ─────┘

二つの光が同位相なら強く出力され、逆位相なら打ち消し合います。

リング変調器

リング状の共振器へ特定波長の光を結合させます。

電圧によって共振条件を変え、光を通したり減衰させたりします。

リング変調器は小型ですが、温度による波長ずれに敏感です。

図解|光変調方式

光変調方式 01

12.光回路が通信をするという理解でよいか

より正確には、

電子回路、レーザー、光変調器、光回路、受光器が協力して通信する

となります。

それぞれの役割は次のとおりです。

部品役割CWレーザー情報を載せるための連続光を作る電子ドライバー送信する0と1を電圧信号として作る光変調器電気データを光へ載せる光導波路光を目的地まで運ぶ分岐器光を複数経路へ分ける合波器複数波長を一本へまとめる分波器波長ごとに分ける光スイッチ光の経路を切り替えるフォトダイオード光を電流へ変えるTIA・受信回路微小電流を増幅してデータを復元する

レーザー単独では通信は完結しません。

同様に、光回路単独でも光源がなければ通信できません。

図解|光回路全体の通信動作

光回路全体の通信動作 01

13.シリコンフォトニクス送信機の一連の動作

たとえばGPUからデータを送る場合です。

① GPUやスイッチASICが電気データを出す

1 0 1 1 0 1 …

② SerDesが高速信号へ変換する

並列データを高速な直列信号へまとめます。

③ ドライバーが変調器を駆動する

電圧を増幅し、変調器へ加えます。

④ CWレーザーが連続光を供給する

この時点の光にはまだデータは載っていません。

──────────── 連続光

⑤ シリコン変調器がデータを載せる

電気信号に合わせて光強度や位相を変化させます。

⑥ 光回路が合波・分岐する

複数のレーザー波長を一本のファイバーへまとめることもあります。

⑦ 光ファイバーで伝送する

⑧ 受信側フォトダイオードが光を電流へ変える

⑨ TIAとSerDesが電気データを復元する

図解|SiPh送信機の信号経路

SiPh送信機の信号経路 01

14.レーザー自体が通信する方式もある

CWレーザーと外部変調器を分ける方式だけではありません。

直接変調レーザー

レーザーへ流す電流を高速に変え、レーザー出力そのものを変化させます。

電流を強くする → 光が強い 電流を弱くする → 光が弱い

この場合は、レーザーが、

光源

変調器

の両方を兼ねます。

利点は構造が簡単で低コストなことです。

一方で、

波長が変動するチャープ

高速化の限界

高出力との両立

温度変化

信号品質

が問題になります。

そのため高速・高密度のシリコンフォトニクスでは、

レーザーは安定したCW光源、変調はシリコン側

という分業が有力です。

図解|直接変調と外部変調

直接変調と外部変調 01

15.CPOではなぜ外部CWレーザーが有力なのか

CPOでは、光変調器や光導波路をスイッチASICのすぐ近くへ置きます。

しかしASIC周辺は高温です。レーザーをその近くへ置くと、

光出力低下

波長ずれ

効率低下

寿命短縮

が起きやすくなります。

そこでレーザーを比較的冷たい位置へ置き、ファイバーでCW光を光エンジンへ運びます。

外部レーザー源 ↓ CW光 光ファイバー ↓ CPO光エンジン ↓ シリコン変調器でデータを載せる

この外部レーザー源には、

複数波長のDFBレーザー

温度制御

光出力監視

冗長レーザー

ファイバー結合

などが含まれます。

まとめ

DFB格子

レーザー内部にある周期構造で、特定波長だけを帰還・増幅します。

BH再成長

量子井戸を含む細い活性領域の左右をInPで埋め直す工程です。電流、光、熱を制御し、高出力と信頼性を高めます。

シリコンフォトニクス

光導波路、変調器、分岐器、合波器、受光器などをシリコン基板上に集積する技術です。

CWレーザー

シリコンフォトニクス方式では、基本的に情報の載っていない安定した連続光を供給する光源です。

実際の通信

電気データを光へ載せるのは変調器、光を運び処理するのは光回路、光を電気へ戻すのはフォトダイオードです。

全体の流れは、

電気データ → ドライバー → 光変調器 + CWレーザー光 → 光信号 → 光導波路・ファイバー → フォトダイオード → 電気データ

となります。

したがって、ユーザーの理解を一文で言い換えると、

CWレーザーが通信のための光を作り、シリコンフォトニクスの光変調器が情報を載せ、光回路が運び、受光器が電気信号へ戻す

という構成です。

図解|CPOと外部CW光源

CPOと外部CW光源 01

4.なぜ日本がこの領域で強いのか

DFBレーザーや量子井戸の基本概念は、世界各国の研究者によって発展した。日本だけの発明ではない。

一方、日本は、

InP系の量子井戸、長波長単一モード発振、位相制御DFB、埋込み再成長を実用的な通信レーザーへ統合する技術

で歴史的に強かった。

旧東京工業大学の末松安晴氏らは、1978年に長波長DBRレーザーを実証し、1980年には高速直接変調下での単一モード動作、1983年には位相シフト型DFBレーザーと波長可変レーザーを実現した。この業績はIEEE Milestoneに認定されている。(ISCT)

特に位相シフトDFBは重要である。

一様な格子ではブラッグ波長の両側にあるモードが競合しやすいが、格子中央へ位相変化を入れることで、特定の一つのモードを優先させられる。現在の高安定単一モードDFBレーザーへつながる基本技術である。

さらにNTT、KDD、NEC、富士通、日立、三菱電機、古河電工、住友電工などが、

InP基板

InGaAsP・AlGaInAs量子井戸

DFB格子

BH再成長

長期信頼性

光ファイバー結合

を産業技術へ落とし込んだ。

日本の強みは、単に量子井戸へ強く光を閉じ込めることではない。

電子、正孔、光、電流、発振波長を、用途ごとに異なる強さで閉じ込める設計と製造

にある。

CPO用の高出力CWレーザーでは、量子井戸への光閉じ込めが強すぎると、利得飽和、発熱、空間的ホールバーニング、端面光密度の上昇につながる。そのため光モードを大きくし、量子井戸との重なりを適度に抑える設計も必要になる。

はい。日本の強みは、単に「高品質な量子井戸を作れる」ことよりも、

MQW活性層のバンド設計と結晶成長、SCHによる光モード設計を、DFB格子・BH再成長・高信頼性実装まで一体で最適化してきたこと

にあります。

図解|日本の研究蓄積の全体像

日本の研究蓄積の全体像 01

日本の研究蓄積の全体像 02

1.MQW活性層での日本の強み

① 歪み量子井戸を欠陥なく成長させる技術

MQWでは、InGaAsP、AlGaInAs、InGaAsなどの数nm厚の井戸層と障壁層を交互に積層します。

歪み量子井戸を使うと、

低いしきい値電流

高い微分利得

高い量子効率

偏光特性の制御

高速変調

発振波長の調整

が可能になります。

しかし、材料の格子定数がInP基板と異なるほど歪みが増え、井戸を厚くしすぎると転位や界面欠陥が発生します。NTTは、高In組成のInGaAs・InAs量子井戸について、臨界膜厚、成長温度、組成を制御し、5nm厚のInAs MQWを構造劣化なく成長させ、2.3µm超でCW単一モード動作するDFBレーザーまで実証しています。これは通信波長帯を越えた例ですが、日本の量子井戸成長技術の幅を示しています。(NTT Technical Review)

日本勢が強いのは、単に井戸を薄く作ることではなく、

井戸厚+材料組成+歪み量+障壁高さ+成長温度{\text{井戸厚}+\text{材料組成}+\text{歪み量}+\text{障壁高さ}+\text{成長温度}}

を組み合わせて、欠陥を増やさずに狙った利得を得る設計です。

② InGaAsPとAlGaInAsを使い分けるバンド設計

従来のInP系通信レーザーではInGaAsPが広く使われてきました。一方、高温動作や高速化ではAlGaInAs系MQWが有力です。

AlGaInAs系では、設計によって電子に対する障壁を高くしやすく、高温時に電子が量子井戸からあふれるキャリアオーバーフローを抑えられます。

NTTはInGaAlAs MQWを使ったDFBレーザー・EMLについて、10~40Gbit/s級の高速動作と広い温度範囲での無冷却動作を開発してきました。高温時の電子・正孔のMQWからの流出を問題として捉え、材料と障壁構造から対策している点が重要です。(NTT Technical Review)

住友電工も、1.3µm帯AlGaInAs/InP DFBレーザーを高速直接変調用に開発してきました。(Sumitomo Electric)

つまり日本には、

InGaAsPの成熟した量産技術

AlGaInAsの高温・高速特性

歪み量子井戸の利得向上

障壁によるキャリア漏れ抑制

を用途別に使い分ける蓄積があります。

③ 低しきい値と高速変調を両立する微分利得設計

直接変調レーザーの速度は、量子井戸の微分利得、光子密度、キャリア寿命、光閉じ込め係数などに左右されます。

日本では、量子井戸の、

井戸数

井戸厚

圧縮歪み

障壁組成

利得ピーク

キャリア分布

を調整し、少ない電流変化で大きく光出力を変えられる構造が研究されてきました。

NTTのInP系膜型レーザーでは、MQWを含む非常に薄いIII-V膜をSiO₂/Si上へ集積し、活性層への強い光閉じ込めを利用して、0.9mAの低しきい値や25~40Gbit/sの直接変調を実証しました。(NTT Technical Review)

さらにNTTは、膜型構造と光フィードバックを組み合わせ、100GHzを超える変調帯域や256Gbit/s PAM4まで示しています。これは通常のCPO用CWレーザーとは異なる用途ですが、MQW利得と光閉じ込めの共同設計能力を示しています。(NTT Technical Review)

④ 高出力向けには、量子井戸への集中を適度に弱める

高速・低しきい値レーザーでは、光とMQWの重なりを強くすることが有効です。

しかし高出力CWレーザーでは、量子井戸内の光密度を高くしすぎると、

利得飽和

空間的ホールバーニング

活性層の温度上昇

非線形損失

端面損傷

が起こりやすくなります。

古河電工は高出力CW-DFBレーザーについて、MQW構造の光閉じ込めを適切に設計し、S・C・L帯にわたり40mW出力を200mA未満の駆動電流で得たと報告しています。(Furukawa Electric)

ここでの日本の強みは、

量子井戸へ光を最大限押し込むことではなく、低しきい値・効率・高出力・寿命に応じて重なりを調整すること

です。

図解|量子井戸とMQW活性層

量子井戸とMQW活性層 01

量子井戸とMQW活性層 02

量子井戸とMQW活性層 03

量子井戸とMQW活性層 04

量子井戸とMQW活性層 05

2.SCH層での日本の強み

① 光モードの大きさと位置を設計する能力

SCH層は、MQWの上下に置かれ、光モードの形を決めます。

SCH設計によって調整できるのは、

光閉じ込め係数(\Gamma)

光モードの垂直方向の広がり

MQWとの重なり

DFB格子との重なり

端面でのスポットサイズ

ファイバー結合効率

内部光密度

です。

つまりSCHは、単なる「量子井戸の上下にある厚い層」ではなく、レーザーの性能を用途へ合わせる光学設計層です。

高い光閉じ込め → 低しきい値・高速変調・小型化

適度に弱い光閉じ込め → 高出力・低光密度・長寿命

大きな光モード → ファイバー結合・端面耐性を改善

日本勢は、この使い分けを長く行ってきました。

② MQWとDFB格子の重なりを別々に調整できる

DFBレーザーでは、光モードの中心はMQW付近に必要ですが、光モードの裾はDFB格子まで届かなければなりません。

SCHが薄すぎたり、格子が近すぎたりすると、

格子結合が強すぎる

散乱損失が増える

光強度が長手方向に偏る

高出力化が難しくなる

可能性があります。

反対にSCHが厚すぎると、光モードが格子へ十分届かず、

DFB帰還が弱い

SMSRが低下する

モード安定性が悪化する

可能性があります。

したがって日本のDFBレーザー研究では、

MQWとの重なりとDFB格子との重なり{\text{MQWとの重なり}\quad\text{と}\quad\text{DFB格子との重なり}}

を同時に最適化してきました。

位相シフトDFBを含め、旧東京工業大学、NTT、通信機器メーカーが長波長単一モードレーザーを継続的に研究したことが、この設計層の厚みにつながっています。

③ 用途に応じて光閉じ込めを反対方向に振れる

SCH設計の難しさは、用途によって正解が反対になることです。

高速直接変調レーザー

活性層への光閉じ込めを高める

短共振器化する

光子密度を高める

低電流で高速応答させる

NTTの膜型レーザーは、SiO₂とIII-V薄膜の大きな屈折率差を使い、活性層への非常に強い光閉じ込めを実現しています。これにより低しきい値と高速直接変調を可能にしました。(NTT Technical Review)

高出力CWレーザー

光モードをSCHへ広げる

MQWとの重なりを適度に下げる

活性層内の光密度を下げる

端面スポットを大きくする

発熱と利得飽和を緩和する

古河電工の高出力CW-DFBや、住友電工のCPO向け高出力レーザーは、こちらの方向に近い設計思想です。住友電工はCPO向けに、SOAを集積した1.3µm帯InPレーザーで45℃時400mW超、電力変換効率25%を報告しています。(Sumitomo Electric)

同じMQW・SCH技術を、

小型・高速側

高出力・高信頼性側

の両方へ振れることが強みです。

④ シリコン導波路との結合まで含めたSCH設計

次世代では、SCHや光コアはレーザー単体の内部だけを考えればよいわけではありません。

シリコンフォトニクスへ光を渡すため、

III-V側の実効屈折率

Si導波路側の実効屈折率

テーパー長

モードサイズ

結合損失

偏光

製造位置ずれ

まで同時に設計します。

NTTは、InP系MQW膜をSiまたは他の導波路へ接合・転写し、Si導波路幅によってレーザーコアの光閉じ込め係数を制御する技術を開発しています。MQW層の接合、選択エッチング、InP再成長、格子形成、スポットサイズコンバーターまでを一連の工程として扱っています。(NTT Technical Review)

これは、従来の「InPレーザー内部のSCH設計」から、

III-Vレーザーとシリコン光回路をまたぐモード設計

へ発展したものです。

図解|SCHとダブルヘテロ構造

SCHとダブルヘテロ構造 01

SCHとダブルヘテロ構造 02

3.MQWとSCHを別々に作らない点が重要

量子井戸の設計だけが良くても、SCHが合っていなければ性能は出ません。

たとえばMQWの利得が高くても、

光モードがMQWと十分重ならない

格子との結合が不適切

光スポットが小さすぎて端面が壊れる

キャリアが高温で漏れる

横方向へ電流が広がる

と、良いレーザーにはなりません。

実際の設計は、概念的に次の多変数最適化です。

レーザー性能=f!(MQW組成・厚さ・井戸数・歪みtextSCH厚さ・屈折率text光閉じ込め係数textDFB結合係数textBH電流閉じ込めtext共振器長text端面反射率text熱抵抗){\text{レーザー性能}=f!\left(\substack{\text{MQW組成・厚さ・井戸数・歪み}\\text{SCH厚さ・屈折率}\\text{光閉じ込め係数}\\text{DFB結合係数}\\text{BH電流閉じ込め}\\text{共振器長}\\text{端面反射率}\\text{熱抵抗}}\right)}

日本の強みは、この組合せを通信システムの要求まで遡って設計してきた点です。

4.なぜ日本にこの強みが蓄積したのか

通信事業者の研究所が材料まで研究した

NTTなどは、通信システムだけでなく、

MOVPE結晶成長

MQWバンド設計

SCH・導波路設計

DFB格子

BH再成長

変調器

光集積

伝送実験

まで社内で研究してきました。

そのため「良い材料を作る」だけではなく、

実際に何km伝送できるか、何Gbit/s出るか、どの温度で動くか

までフィードバックできました。

材料・デバイス・光ファイバー・実装企業が同国内に揃った

日本には、

InP基板:住友電工など

MQW・レーザー:NTT、古河電工、住友電工、三菱電機など

光ファイバー:古河電工、住友電工

光コネクター・実装

通信システム

大学の光電子研究

が近接して存在しました。

住友電工は1970年代から光ファイバー、化合物半導体、光通信モジュールを並行開発し、光デバイスからモジュールまでの事業を築いてきました。(Sumitomo Electric)

この垂直統合環境が、MQWやSCHを単独の材料研究で終わらせず、製品へ落とし込む力になったと考えられます。

5.現在の日本の位置づけ

ここは区別が必要です。

日本には、

MQW材料設計

歪み制御

MOVPE成長

SCH・光モード設計

DFB・位相制御

BH再成長

高温・長寿命評価

光ファイバー実装

に厚い技術蓄積があります。

ただし現在の量産規模や市場支配力まで日本が一位という意味ではありません。Coherent、LumentumなどもInP MQW、SCH、高出力CWレーザーで非常に強く、台湾や欧州にもエピ・ファウンドリー能力があります。

日本の特徴は、純粋な生産量より、

材料、光モード、格子、再成長、熱、実装を一つの通信デバイスとしてまとめる総合設計力

にあります。

まとめ

MQW活性層における日本の強みは、

高品質な歪み量子井戸の結晶成長

InGaAsP/AlGaInAsの使い分け

高温時のキャリア漏れ抑制

高い微分利得と低しきい値

高速・高出力向けの利得設計

波長帯を広げる量子井戸技術

です。

SCH層における強みは、

光モードの大きさと位置の精密制御

MQWとDFB格子への重なりの同時最適化

高速用の強い閉じ込めと、高出力用の広いモードの使い分け

端面・ファイバー・Si導波路まで含めたモード変換

MQW、BH、DFB、熱設計との統合

です。

一言で表すなら、

日本の強みは「量子井戸を作る技術」だけでなく、量子井戸が生む利得を、SCHで望ましい光モードへ変え、DFBとBHを通じて実用的な単一波長レーザーへ仕上げる技術にある

ということです。

日本のMQW・SCH・DFBレーザー研究は、どのように企業へつながったのか

量子構造、単一モード、光閉じ込め、高出力化を結んだ研究者と産業の系譜

量子井戸を活性層に使うInP系DFBレーザーは、一つの発明だけで完成した技術ではない。電子と正孔を閉じ込めるMQW、多重量子井戸、光モードの広がりを設計するSCH、光と電流を横方向へ閉じ込めるBH構造、発振波長を選択するDFB格子、さらに位相シフト、端面設計、熱対策、ファイバー実装を組み合わせて初めて、通信に使えるレーザーになる。

日本がこの分野で強みを築いた理由は、大学で生まれた量子構造や共振器の理論を、通信事業者の研究所、電機メーカー、光部品メーカー、材料企業が長期間にわたって引き継ぎ、実際の通信システムと量産工程へ落とし込んできたことにある。研究者個人の業績だけでなく、大学、企業研究所、製造現場が連続した技術圏を形成したことが重要である。

1.末松安晴――光通信に必要な「一つの波長」を作る

日本の長波長単一モードレーザー研究を語るうえで、旧東京工業大学の末松安晴氏は中心的な存在である。

末松氏らの研究グループは、1978年に長波長DBRレーザー、1980年に高速直接変調中でも単一モードを維持するレーザー、1983年には位相シフトDFBレーザーと波長可変半導体レーザーを実現した。

この研究の重要性は、レーザーを単に発光させたことではない。光ファイバー通信で使えるように、発振する波長を一つに絞り、温度や変調条件が変わっても安定させたことにある。

通常の一様なDFB格子では、ブラッグ波長の両側に二つの発振候補が現れ、モード競合が起きやすい。格子中央に光学的な位相変化を設けると、ストップバンド中央に一つの欠陥モードを作ることができる。これがλ/4位相シフトDFBの基本である。

この成果は量子井戸そのものの研究ではなく、DFB格子と共振器による縦モード制御の研究である。しかし、MQWが広い波長範囲で光利得を作っても、共振器が一つの波長を選択できなければ、WDMや長距離通信に適した光源にはならない。

役割を分けると、次のようになる。

MQW活性層が光を発生し、増幅する

SCHが光モードの形と広がりを決める

DFB格子が発振可能な波長を絞る

位相シフトが競合する縦モードから一つを選ぶ

末松氏の研究は、後のNTT、KDD、NEC、富士通、日立、三菱電機、古河電工、住友電工などによる長波長DFBレーザー開発の基礎となった。ただし、これは特定企業一社への単純な技術移転ではない。大学で確立された基本概念が論文、人材、共同研究、学会活動を通じて産業全体へ広がった例と見るべきである。

図解|末松安晴と単一波長DFB

末松安晴と単一波長DFB 01

2.荒川泰彦・榊裕之――量子井戸から量子ドットへ続く活性層研究

DFB格子が発振波長を選ぶ技術だとすれば、量子井戸研究はレーザーがどのように光利得を作るかを設計する技術である。

荒川泰彦氏と榊裕之氏は1982年、電子と正孔を活性層内で低次元化した場合に、レーザーのしきい値や温度特性がどのように変化するかを理論的に示した。この研究は量子ドットレーザーの出発点として知られるが、量子井戸レーザーの理解にも大きな影響を与えた。

通常のバルク活性層では、電子は三次元的に運動できる。量子井戸では一方向の運動が制限され、量子細線では二方向、量子ドットでは三方向すべてが制限される。閉じ込める次元が増えるほど電子状態密度の形が変わり、しきい値電流、微分利得、温度依存性を改善できる可能性が生まれる。

この理論は、MQW設計で重要となる、

井戸厚

井戸数

障壁高さ

歪み

キャリア分布

温度によるキャリア漏れ

を物理的に理解する基盤となった。

荒川氏らの研究は、その後、富士通研究所との共同研究へ進んだ。大学側が低次元量子構造の理論とデバイス原理を担い、富士通研究所が結晶成長、素子設計、信頼性、量産技術を発展させた。その成果を事業化する企業としてQDレーザが設立され、広い温度範囲で動作する通信用量子ドットレーザーの量産へつながった。

これは日本の光半導体研究における、最も分かりやすい産学連携の一つである。

東京大学の量子構造理論 ↓ 富士通研究所との実用化研究 ↓ 量子ドットレーザーの試作・信頼性評価 ↓ QDレーザ設立 ↓ 通信用レーザーとして量産

MQW型DFBレーザーと量子ドットレーザーは同一ではないが、電子と正孔を狭い領域へ閉じ込め、状態密度を制御し、温度特性と利得を改善するという研究思想は共通している。

図解|量子井戸から量子ドットへの系譜

量子井戸から量子ドットへの系譜 01

3.荒井滋久・西山伸彦――SCHと光モードを再設計した膜型レーザー

旧東京工業大学の荒井滋久氏、西山伸彦氏らの研究系統は、InP系量子井戸、DFB・DBR共振器、微細格子、結晶再成長、III-V/Si異種集積を結び付けてきた。

特に重要なのが膜型InPレーザーである。

従来型InPレーザーでは、MQWの上下にSCH層と厚いInPクラッドを配置し、屈折率差によって光を閉じ込める。膜型レーザーでは、MQWを含むIII-V層全体を薄膜化し、その周囲にSiO₂などの低屈折率材料を配置する。

III-V半導体とSiO₂の屈折率差は大きいため、薄いレーザー膜の内部へ光を強く閉じ込めることができる。これにより、

活性体積の縮小

低しきい値電流

小型共振器

高い変調効率

シリコン導波路との結合

が可能になる。

この研究は、単にSCH層を厚くする、薄くするという改良ではない。レーザー膜、低屈折率クラッド、シリコン導波路を一つの光学系として設計し、光モードそのものを作り直す研究である。

荒井・西山系の研究と、後述するNTTの膜型InPレーザー研究は技術領域が非常に近い。ただし、個々の技術について大学からNTTへ一方向に移転したと単純化するのは適切ではない。大学と企業研究所がそれぞれ低消費電力レーザー、異種材料集積、微細共振器という共通課題を追い、学会や共同研究を通じて相互に発展させた研究生態系と見る方が正確である。

図解|膜型レーザーとSCH再設計

膜型レーザーとSCH再設計 01

4.小山二三夫とNTT――共振器でレーザーの速度限界を超える

小山二三夫氏はVCSEL研究で著名だが、NTTとの共同研究では、InP系膜型レーザーの超高速直接変調にも取り組んだ。

半導体レーザーの直接変調速度は、通常、電子と正孔の応答、光子寿命、緩和振動周波数などによって制限される。量子井戸の微分利得を高めるだけでは、速度向上に限界がある。

そこで使われたのが、膜型レーザー、外部光帰還、フォトン・フォトン共鳴の組合せである。

高熱伝導のSiC基板上へInP系膜型レーザーを形成し、外部共振器から適切な光帰還を与えることで、新たな共振ピークを作り、変調帯域を拡大した。この研究では、100GHzを超える3dB変調帯域と256Gbit/s PAM4伝送が示された。

この成果の意味は、MQW活性層だけを改良したのではなく、

MQWが作る利得

SCH・薄膜構造による光閉じ込め

SiC基板による放熱

外部共振器

光帰還

高速駆動回路

を一体設計したことにある。

大学側はレーザー物理、共振器、光モード制御を担い、NTT側はInP膜型デバイス、異種材料接合、電極、光伝送評価を統合した。これは、大学と企業研究所の役割分担が明確に現れた事例である。

図解|共振器による高速化

共振器による高速化 01

5.松尾慎治・武田浩司ら――NTTの膜型InPレーザーと光電融合

NTTでは、松尾慎治氏、武田浩司氏、柿塚高明氏、藤井拓郎氏、仁志英俊氏らが、InP系膜型レーザーとシリコンフォトニクスの集積を進めてきた。

代表的な膜型DFBレーザーでは、InGaAsP量子井戸を含む非常に薄いIII-V膜をSiO₂/Si基板へ接合し、横方向から電流を注入する。活性領域をエッチングした後、InPを再成長して埋め込むBH構造も使われる。

この構造では、従来型InPレーザーより光閉じ込めを強くできるため、活性体積としきい値電流を小さくできる。NTTは0.9mAのしきい値電流、25.8Gbit/s直接変調、171fJ/bitという低エネルギー動作を示してきた。

さらに、シリコン導波路とのテーパー結合、MZMやEA変調器との集積、マイクロトランスファープリントなどへ研究を広げている。

ここでは、SCHはレーザー内部だけの層ではなくなっている。III-V側の光モードを徐々にシリコン導波路へ移すため、

III-V膜厚

SCHの屈折率

シリコン導波路幅

テーパー形状

接合層厚

位置ずれ許容度

まで含めて設計する。

NTTの研究は企業との連携ではなく、NTT自身の企業研究である。その目的は、通信ネットワーク、データセンター接続、IOWN、光電融合、低消費電力光I/Oへ直結している。材料研究から伝送実験までを一社内で接続できることが、NTTの大きな強みである。

図解|膜型InPレーザーと光電融合

膜型InPレーザーと光電融合 01

6.古河電工――高出力CW-DFBを実際の外部光源へ

古河電工では、笠川明彦氏、高木圭司氏、木瀬智文氏、丸山一臣氏らが、高出力CW-DFBレーザーを研究してきた。

高出力CWレーザーでは、MQWとの光の重なりを強くすればよいわけではない。光閉じ込め係数が高すぎると、MQW内部の光密度が上昇し、利得飽和、発熱、空間的ホールバーニング、端面損傷が起きやすくなる。

古河電工は、

MQW光閉じ込め係数

SCH厚

共振器長

DFB結合係数

端面反射率

を同時に最適化した。

過去の研究では、S~L帯で40mW級の出力、最大175mWの高出力、狭線幅動作などを示している。重要なのは、これらをレーザーダイの研究で終わらせず、レンズ、ファイバー、温度制御、波長監視を含むレーザーモジュールへ展開したことだ。

この技術系譜は現在、CPOやシリコンフォトニクスへ連続光を供給する外部レーザー源へつながっている。

古河電工はレーザーチップだけでなく、

光ファイバー

コネクター

レンズ結合

外部レーザー源

放熱

光実装

まで扱う。したがって、MQW・SCH設計を完成光源へ結び付けやすい企業構造を持つ。

図解|高出力CW-DFB外部光源

高出力CW-DFB外部光源 01

7.住友電工――InP基板からMQW、高出力光源まで

住友電工では、八木英樹氏、大西裕氏、小山健二氏、辻幸洋氏らが、AlGaInAs/InP系高速DFBレーザーを開発してきた。

AlGaInAs MQWは、設計によって電子に対する障壁を高くしやすい。このため高温時に電子が量子井戸から漏れ出すキャリアオーバーフローを抑え、高い微分利得と温度安定性を得やすい。

住友電工はAlGaInAs圧縮歪みMQW、DFB格子、p-InP再成長、リッジ導波路、低容量電極を組み合わせ、20GHz超の電気帯域、26Gbit/s直接変調、85℃での無冷却動作などを実現してきた。

さらに青山康之祐氏、井上大輔氏、藤原直樹氏らの研究では、DFBレーザー部とワイドストライプSOA部を集積し、45℃で400mW超、電力変換効率25%のCPO向け光源を実現している。

この構造では役割を分離している。

DFB部 → 狭線幅・単一波長・波長安定性

テーパー部 → 光モードを徐々に拡大

SOA部 → 光を高出力まで増幅

住友電工の特徴は、InP基板、エピタキシャル成長、レーザーダイ、光モジュール、光ファイバーを同じ企業グループ内に持つことにある。

基板の結晶欠陥やドーピングから、MQW、SCH、DFB、実装、ファイバー接続までを遡って最適化できる。これは、研究成果を製品へ移すうえで大きな優位性となる。

図解|InP基板から高出力光源まで

InP基板から高出力光源まで 01

8.日本の研究と企業連携には四つの形がある

日本のInPレーザー研究を整理すると、企業とのつながりは四種類に分けられる。

第一は、大学発の基礎技術が産業全体へ広がる形である。末松安晴氏の長波長単一モードレーザーや位相シフトDFBが代表例である。

第二は、大学と企業研究所の共同研究である。小山二三夫氏とNTTによる超高速膜型レーザーがこれに当たる。

第三は、大学研究からスタートアップへ進む形である。荒川泰彦氏、榊裕之氏、富士通研究所、QDレーザの系譜が代表的である。

第四は、企業研究所内部の垂直統合である。NTT、古河電工、住友電工は、材料・デバイスから実装・伝送までを社内でつないでいる。

日本の強みは研究者個人ではなく、技術をつなぐ構造にある

日本のMQW・SCH・DFBレーザー研究は、量子井戸、格子、光モード、再成長、高出力化を別々に発展させただけではない。

末松安晴氏らが単一波長と位相制御を確立し、荒川泰彦氏と榊裕之氏が量子閉じ込めの理論を示し、荒井滋久氏、西山伸彦氏らが薄膜と光モードを再設計した。小山二三夫氏とNTTは共振器による超高速化を進め、NTTの研究陣はInP膜型レーザーをシリコンフォトニクスへ統合した。古河電工は高出力CW-DFBを外部光源へ仕上げ、住友電工はInP基板から高出力レーザーまでを垂直統合した。

その研究系譜は、

量子井戸で光利得を作り、SCHで光モードを整え、DFBで波長を選び、BHで電流と熱を管理し、最後にファイバーやシリコン光回路へ光を渡す

という一つの技術体系を形成している。

AI時代のCPOやOptical I/Oで再評価されているのは、個別の古い発明だけではない。大学、通信事業者、材料企業、光部品メーカーが数十年間かけて作り上げた、日本の光半導体研究・製造ネットワークそのものである。

図解|日本の研究・企業連携

日本の研究・企業連携 01

日本の研究・企業連携 02

5.製造工程――多層ケーキを作った後に、切って埋めて焼き直す

CW DFB型InPレーザーの代表的な工程は次のようになる。

図解|InPレーザーの製造・実装・検査工程

InPレーザーの製造・実装・検査工程 01

InPレーザーの製造・実装・検査工程 02

InPレーザーの製造・実装・検査工程 03

InPレーザーの製造・実装・検査工程 04

InPレーザーの製造・実装・検査工程 05

InPレーザーの製造・実装・検査工程 06

InPレーザーの製造・実装・検査工程 07

1.InP単結晶・基板製造

↓

2.バッファ、SCH、MQW、格子層をMOCVD成長

↓

3.DFB格子をリソグラフィーで形成

↓

4.格子をエッチング

↓

5.表面洗浄

↓

6.p-InPクラッドを再成長

↓

7.リッジまたはBH構造を形成

↓

8.絶縁膜・電極形成

↓

9.ウェハーをバーへ分割

↓

10.端面形成・反射防止膜

↓

11.チップ分割

↓

12.放熱部材・レンズ・ファイバーへ実装

↓

13.光学検査・バーンイン・顧客認証

特に厄介なのは、一度結晶成長を止めて格子や導波路を加工し、その後もう一度結晶を成長させることだ。

再成長前の表面に、

酸化膜

有機物

微粒子

エッチング残渣

結晶損傷

が残ると、非発光再結合、電流リーク、光損失、早期故障の原因になる。

装置を購入するだけでは解決できず、洗浄条件、リアクター履歴、成長開始温度、原料ガス供給、ドーピング切替えなどのレシピが必要になる。ここに長年の暗黙知が蓄積される。

6.なぜ資金を投入してもすぐ増産できないのか

6-1.InPウェハーが小さい

シリコンの先端半導体では300mm、12インチウェハーが一般的だが、InPレーザーは長く2~4インチ級を中心に生産されてきた。

4インチと12インチを単純な面積で比べると、

12242=9{\frac{12^2}{4^2}=9}

となる。

実際の取得チップ数は端部損失や歩留まりの影響を受けるが、ウェハー一枚当たりの生産性には大きな差がある。

Coherentは米国とスウェーデンで6インチInP能力を立ち上げ、同社試算で従来比4倍の生産能力と約60%のダイコスト削減を見込んでいる。別の製品発表では、米国Sherman工場の拡張により生産能力を従来の約5倍へ引き上げる計画を示している。(Coherent Inc)

ただし6インチ化は、単に大きな基板を装置へ入れる作業ではない。

温度分布

原料ガスの流れ

膜厚

材料組成

ドーピング濃度

ウェハー反り

格子寸法

発振波長

をウェハー全体で均一にしなければならない。

6-2.エピタキシャル成長が難しい

MQWは、数nmの井戸と障壁を何層も交互に積み重ねる。

わずかな厚さや組成の違いで、

発振波長

しきい値電流

光出力

温度特性

偏光

寿命

が変わる。

さらにp型・n型ドーパントが隣接層へ拡散すると、電気特性や光学特性が変化する。MOCVD装置の能力に加えて、成長レシピと工程管理が必要になる。

6-3.DFB格子が波長歩留まりを決める

格子周期、深さ、形状、側壁角度が変わると、発振波長と格子結合係数が変わる。

レーザーが発光していても、

波長が規格外

サイドモード抑圧比が不足

線幅が広すぎる

出力が不足

温度変化で波長がずれる

場合は良品として出荷できない。

つまりレーザーチップの歩留まりは、単なる「動作するチップ数」ではなく、指定波長ごとの良品数で決まる。

6-4.高出力CWでは熱と寿命が厳しい

CPO向けレーザーは、研究室で短時間発光すればよいわけではない。数百mW級の光を高温環境で連続出力し、長期間動作する必要がある。

高出力化すると、

接合部温度の上昇

利得飽和

電流集中

非放射再結合

端面損傷

波長ドリフト

効率低下

が起こりやすい。

Lumentumは2026年に、1310nm帯で25℃時1W超、50℃時800mW超、線幅100kHz未満のCPO向けSHPレーザーを発表した。これは高出力だけでなく、波長純度、熱設計、低雑音を同時に成立させる競争が進んでいることを示す。(Lumentum Investor Relations)

6-5.後工程が自動化しにくい

レーザーチップの後工程には、

へき開による端面形成

反射防止膜・高反射膜

サブマウント接合

ワイヤーボンディング

レンズ位置合わせ

ファイバー結合

温度センサー

フォトダイオード

冷却・放熱構造

が必要になる。

光学位置合わせはサブミクロン級の精度を要求されることがあり、CMOSロジックの組立とは異なる設備とノウハウが必要である。

6-6.検査とバーンインに時間がかかる

レーザーでは、

光出力

発振波長

SMSR

線幅

RIN

偏光

温度特性

長期劣化

を測定する。

さらに高温、高電流で一定時間動作させ、初期故障を取り除くバーンインが必要になる。Aehrはレーザーやフォトニクスデバイスのウェハー、ダイ、モジュール単位での試験とバーンインを展開している。(Aehr Test Systems)

ウェハー工程を増強しても、検査・バーンイン能力が不足すれば出荷量は増えない。

6-7.顧客認証が最後の関門になる

新しい工場、新しいウェハー径、新しいエピ工程へ変更すると、顧客側で再認証が必要になることがある。

顧客が求めるのは、

出力

波長

線幅

雑音

動作温度

寿命

パッケージ形状

ファイバー仕様

故障率

を長期間満たす製品である。

設備完成と売上計上の間には、歩留まり改善、信頼性試験、顧客認証という時間差がある。

図解|エピ成長・後工程・装置の増産制約

エピ成長・後工程・装置の増産制約 01

エピ成長・後工程・装置の増産制約 02

エピ成長・後工程・装置の増産制約 03

エピ成長・後工程・装置の増産制約 04

エピ成長・後工程・装置の増産制約 05

エピ成長・後工程・装置の増産制約 06

7.供給能力は最も弱い工程で決まる

InPレーザーの出荷能力は、概念的には次のように表せる。

実効出荷能力=min⁡(InP基板供給, エピ成長能力,DFB格子加工能力, 再成長能力,レーザーFab能力, 前工程歩留まり,実装能力, 光学検査能力,バーンイン能力, 顧客認証済み能力)\begin{aligned}\text{実効出荷能力}&=\min\bigl(\text{InP基板供給},\ \text{エピ成長能力},\\&\quad \text{DFB格子加工能力},\ \text{再成長能力},\\&\quad \text{レーザーFab能力},\ \text{前工程歩留まり},\\&\quad \text{実装能力},\ \text{光学検査能力},\\&\quad \text{バーンイン能力},\ \text{顧客認証済み能力}\bigr)\end{aligned}

基板だけを増やしてもレーザーは増えない。

MOCVD装置だけを増やしても、格子加工や再成長で詰まる可能性がある。

レーザーダイを増やしても、実装、ファイバー結合、検査が不足すれば完成品にならない。

この「最小値で決まる」構造こそ、資金だけで短期解決しにくい理由である。

図解|InPレーザー供給網の全体像

InPレーザー供給網の全体像 01

8.領域別の有力銘柄

以下は買い推奨順位ではなく、技術と供給網のどこへ露出しているかを整理したものである。2026年8月2日時点。

8-1.InP基板

住友電気工業〔5802〕

住友電工はInP基板、光デバイス、シリコンフォトニクスとの異種材料集積まで幅広く持つ。基板だけの専業ではないが、材料からデバイスへつながる垂直統合が強い。会社はデータセンター向け光デバイスとInP基板の能力拡張を成長戦略に位置づけている。(Sumitomo Electric)

強み

高品質InP基板

光デバイスとの垂直統合

日本国内の材料・製造基盤

次世代InP光源研究

注意点

事業規模が大きく、InPレーザーだけへの株価感応度は低い

AXT〔NASDAQ:AXTI〕

AXTはInP、GaAs、Ge基板を製造する材料企業で、住友電工よりInP需給への業績感応度が高い。

2026年にはInP能力拡張と6インチInP研究へ資金を振り向け、7月にはLumentumと2031年末までのInP基板供給・能力予約契約を締結した。Lumentumからの予約デポジットは、初回4,350万ドルと2028年に条件を定める予定の追加4,350万ドルで、合計8,700万ドルとなる。(AXT, Inc.)

強み

InP基板への高い事業純度

Lumentumとの長期契約

大規模能力拡張

注意点

中国での生産

輸出許可

地政学

大規模増資と設備投資

歩留まり改善

8-2.エピウェハー

LandMark Optoelectronics〔台湾・3081〕

LandMark、聯亞光電はGaAs・InPエピウェハーの専門企業である。

公式のデータセンター向け製品には、

DFBレーザー用エピウェハー

高出力CWレーザー用エピウェハー

再成長InPエピウェハー

リッジ導波路DFB

BH-DFB

が含まれる。提示された断面図のMQW、SCH、格子層に最も直接的な外部エピ企業の一つである。(Lmoc)

強み

InPエピ専業度

DFB、CW、BH向け製品

台湾光通信供給網への近さ

注意点

顧客集中

台湾市場特有の値動き

顧客側内製化

IQE〔LSE AIM:IQE〕

IQEは化合物半導体エピウェハー大手で、創業時からInPエピを製造している。

2026年6月にはTower SemiconductorとAIデータセンター用光接続向けInPエピウェハーの複数年契約を締結し、200Gbps/laneや次世代400Gbps/lane技術を対象にしている。(Iqep)

強み

外部エピ供給の顧客基盤

AI・データセンター向け契約

複数材料への展開

注意点

財務体質

資本調達

顧客側の内製エピとの競争

8-3.MOCVD・成膜・格子加工装置

Veeco Instruments〔NASDAQ:VECO〕

VeecoはInP能力増強の「つるはし銘柄」として非常に直接的である。

2026年5月、複数顧客からInPレーザー製造向けに総額2億5,000万ドル超の装置受注を発表した。対象にはLumina MOCVD、Spectorイオンビーム成膜、ウェット処理装置が含まれる。(Veeco Instruments)

強み

MOCVD

光学膜

ウェット処理

複数顧客からの大型受注

レーザーメーカー間の勝敗に依存しにくい

注意点

受注の集中

顧客の設備投資サイクル

装置売上の四半期変動

AIXTRON〔Xetra:AIXA〕

AIXTRONはIII-V族MOCVD装置の有力企業である。

2026年5月にはLumentumからG10-AsPを複数受注し、InPレーザーと受光デバイスの能力拡張を支援すると発表した。膜厚、組成、温度のウェハー面内均一性が重要なInPエピ工程への露出が高い。(AIXTRON)

強み

III-V MOCVDの長い実績

Lumentumを含む主要顧客

高量産向けG10-AsP

注意点

SiC、GaN、microLEDなど他市場の影響も大きい

顧客の設備投資時期に左右される

Oxford Instruments〔LSE:OXIG〕

Oxford InstrumentsはInPレーザー向けのプラズマエッチングに強い。

特に、

DFB格子

InPメサ

リッジ導波路

低損傷ICPエッチング

パッシベーション

を対象とする。提示された図の「格子の歯を掘る」工程に最も近い装置企業である。(Oxford Instruments)

注意点

InPレーザーは同社全体の一事業であり、株価は研究機器、分析装置、量子関連などにも左右される。

8-4.CW DFBレーザーチップ

Coherent〔NYSE:COHR〕

量産能力では最有力候補である。

CoherentはInP材料、エピ、レーザー、受光素子、光モジュールまで広く保有し、米国と欧州で6インチInP製造能力を拡張している。(Coherent Inc)

強み

6インチInP

大量生産

CWレーザー、EML、検出器

光トランシーバーまでの垂直統合

CPOが遅れてもプラガブル製品で需要を取れる

注意点

巨額設備投資

6インチ量産歩留まり

通信市場全体の市況

レーザー単体の業績寄与が見えにくい

Lumentum〔NASDAQ:LITE〕

性能とテーマ純度では最有力候補である。

LumentumはInPプラットフォーム上のCWレーザー、UHPレーザー、外部レーザー源を展開する。2026年には1W超のSHPレーザーを示し、CPO、シリコンフォトニクス、coherent-lite向けを狙っている。(Lumentum Investor Relations)

強み

高出力

狭線幅

低RIN

高温動作

レーザーダイからELSまで

AXTとの長期InP基板契約

AIXTRON装置による能力増強

注意点

急拡大する設備投資

顧客認証

高出力製品の歩留まり

光通信需要の変動

古河電気工業〔5801〕

日本株では最も直接的なCPO用DFBレーザー銘柄である。

古河電工は高出力DFBレーザーチップ、複数チャネル外部レーザー源、偏波保持ファイバー、光コネクターを持つ。2025年12月には新しい岩手工場とタイの検査・組立設備を発表し、2028年度のDFBレーザーチップ能力を2025年度比500%超へ拡大する計画を示した。(Furukawa Electric)

強み

高出力DFB

ELS完成品

光ファイバー・コネクター

日本の長波長レーザー技術

明確な増産計画

注意点

新工場の売上寄与は2028年前後

建設、装置導入、歩留まり、認証の時間差

全社には電線、自動車、電力事業も含まれる

Applied Optoelectronics〔NASDAQ:AAOI〕

AAOIは米国内にレーザーFabを持つ、比較的小規模な高感応度銘柄である。

2025年12月には、シリコンフォトニクスとCPO向けの超高出力半導体レーザーを発表した。(AO Investors)

強み

自社InPレーザーFab

小型企業のため採用時の業績感応度が高い

トランシーバーとレーザーの内製

注意点

顧客集中

設備投資負担

歩留まり

大手との競争

株価変動の大きさ

Sivers Semiconductors〔Stockholm:SIVE〕

Siversは高出力DFBレーザーアレイへの技術純度が高い。

Ayar LabsのSuperNova光源へ8波長、16波長のDFBレーザーアレイを提供し、InP100プラットフォームを使って光I/O向け多波長光源を開発している。(Sivers Semiconductors)

強み

CW-WDMレーザーアレイ

Ayar Labsとの関係

Optical I/Oへの直接性

小型株としての高い感応度

注意点

量産規模

財務

顧客依存

Optical I/Oの立ち上がり時期

Broadcom〔NASDAQ:AVGO〕

BroadcomもO-band、1.3µm帯の高出力CWレーザーを持つ。

ただし投資対象としてはレーザー専業ではなく、スイッチASIC、SerDes、DSP、シリコンフォトニクス、CPOをまとめて持つシステム企業である。(Broadcom)

レーザー不足への株価感応度は低いが、CPO全体を統合できる点では強い。

8-5.外部レーザー源・光学実装

Lumentum

高出力レーザーをサービス可能な外部レーザー源へまとめられる。レーザーダイだけでなく、光源モジュールとして販売できる点が強い。(Lumentum)

古河電工

DFBチップ、ELS、ファイバー、コネクター、放熱、光結合をまとめて供給できる。CPO用の外部光源まで一貫して扱える日本企業として重要である。(Furukawa Electric)

Coherent

レーザー、光サブアセンブリー、トランシーバーを持つため、ダイ販売だけでなく上位製品へ付加価値を移せる。

Fabrinet〔NYSE:FN〕

精密光学・光電変換機器の製造受託企業である。特定のCWレーザー顧客は開示されないことが多いが、光学実装が複雑化するほど製造受託需要が増える可能性がある。2025年度の年次報告書でも精密光学・電気機械製造を主要事業としている。(Fabrinet Investor)

8-6.検査・バーンイン

KLA〔NASDAQ:KLAC〕

化合物半導体を含むウェハーの表面欠陥、エピ欠陥、製造工程異常の検査に強い。6インチ化で面内均一性と欠陥管理の重要性が上がるほど、プロセス制御装置の価値が高まる。(KLA)

ただしInPレーザーはKLA全体から見れば小さな市場である。

Aehr Test Systems〔NASDAQ:AEHR〕

フォトニクス、レーザー、シリコンフォトニクスのウェハー・ダイ・モジュール単位でのバーンインに露出する。

レーザーの初期故障除去と光学特性安定化が必要になるほど、同社装置の重要性が高まる可能性がある。(Aehr Test Systems)

ただし現時点の同社業績はSiC、GaN、AIプロセッサー向け試験の影響も大きい。

VIAVI Solutions〔NASDAQ:VIAV〕

光パワーメーター、光スペクトラム、スイッチ、環境信頼性試験、光部品製造検査を提供する。レーザーダイそのものより、光源モジュール、ファイバー、コネクターを含む完成システム側への露出が強い。(VIAVI Solutions Inc.)

9.投資テーマ別に整理する

完成品の本命

Coherent、Lumentum、古河電工

Coherent:量産能力と6インチ化

Lumentum:高出力性能とレーザー事業純度

古河電工:日本のDFB・ELSと明確な増産計画

上流材料の本命

AXT、住友電工、LandMark、IQE

AXT:InP基板への高い感応度

住友電工:高品質基板と垂直統合

LandMark:DFB・CW用エピ

IQE:外部エピ供給とAI向け契約

設備投資のつるはし

Veeco、AIXTRON、Oxford Instruments

Veeco:2026年の大型受注が具体化

AIXTRON:LumentumなどのMOCVD増強

Oxford:DFB格子・InPエッチング

高リスク・高感応度

AAOI、Sivers、AXT、IQE、LandMark

採用や供給逼迫が業績へ大きく反映される可能性がある一方、顧客集中、財務、量産歩留まり、地政学の影響も大きい。

CPO全体の統合企業

Broadcom

レーザーだけではなく、スイッチASICから光エンジンまでを含む。レーザー不足の純粋な投資先ではないが、CPO全体の商用化を主導できる。

図解|投資テーマ別の供給網整理

投資テーマ別の供給網整理 01

10.今後確認すべき指標

このテーマでは、「技術発表」だけでは量産を判断できない。

重要なのは次の順序である。

研究試作 ↓ 顧客サンプル ↓ 信頼性評価 ↓ 顧客認証 ↓ 能力予約・LTA ↓ 装置発注 ↓ 工場完成 ↓ 初期量産 ↓ 歩留まり改善 ↓ 本格売上

確認すべき項目は、

InP基板の能力予約とデポジット

MOCVD装置受注

6インチ移行率

DFBレーザーの波長別歩留まり

高温時の光出力

電力変換効率

線幅とRIN

顧客認証数

ELSのチャネル数

バーンイン時間

新工場の稼働時期

売上より先に増える減価償却費

である。

特にAXTとLumentumの長期契約、Veecoの2億5,000万ドル超の装置受注、AIXTRONのLumentum向け複数装置、古河電工の500%超増産計画は、InPレーザー需要が研究段階から実際の能力確保へ移り始めていることを示す。(AXT, Inc.)

図解|増産と供給網の確認指標

増産と供給網の確認指標 01

結論――InPレーザーは一枚のチップではなく、供給網全体の総合技術である

CW DFB型InPレーザーは、中央の量子井戸で光を作り、SCHとクラッドで光を閉じ込め、BHやリッジで電流と横モードを制御し、DFB格子で波長を選択する。

しかし量産を難しくしているのは、構造そのものだけではない。

高品質InP基板

ナノメートル単位のMQW成長

微細DFB格子

汚染を許さない再成長

高出力時の熱設計

端面コーティング

ファイバー結合

長時間バーンイン

顧客認証

をすべて成立させなければならない。

日本は、末松安晴氏らによる長波長単一モードレーザーと位相シフトDFBの研究から、NTTのBH・再成長技術、古河電工の高出力DFB・ELS、住友電工のInP基板と光デバイスまで、長い技術的蓄積を持つ。

一方、現在の量産競争ではCoherentの6インチInP、Lumentumの超高出力光源、Veeco・AIXTRONの装置増強、AXT・IQE・LandMarkの上流供給も重要である。

したがって、このテーマは単なる「レーザー銘柄探し」ではない。

AI計算基盤の光化によって、InP基板、エピ、MOCVD、DFB格子、再成長、レーザーチップ、光学実装、検査まで、古い化合物半導体産業全体が再評価される構造変化

として見る必要がある。

光変調、シリコンフォトニクス、CWレーザー、InP基板、化合物半導体は、なぜ発展してきたのか

これらの技術は別々に生まれましたが、現在は一つの光通信システムの中で役割分担しています。

その歴史を一文で表すと、

電気だけでは遠く・速く・低消費電力で情報を運べないため、光を作る材料、光へ情報を載せる技術、光を処理する回路、そしてそれらを量産する製造基盤が順番に発展してきた

という流れです。

なお、ここでは「InP基盤」を、結晶の土台であるInP基板と、その上にレーザーや受光器を作るInP系デバイス・プラットフォームの両方を含む意味で説明します。

1.全体の歴史を先に見る

時代主な課題発展した技術目的
1940~1950年代真空管を小型化したいSi・Ge半導体、III-V化合物半導体研究電子回路の小型化、高速化
1960年代半導体から強い光を出したい半導体レーザー、ヘテロ構造電気を直接レーザー光へ変える
1970年代光ファイバー通信を実用化したい低損失ファイバー、室温CWレーザー、InP系材料長距離電話通信
1980年代波長を安定させ、高速化したいInGaAsP/InP、DFB、MQW、BH、外部変調単一波長・高速・高信頼化
1990年代インターネット幹線の容量を増やしたいWDM、LiNbO₃変調器、光増幅器、InP光集積一本のファイバーで多波長伝送
2000年代光部品を安く大量に作りたいシリコンフォトニクス、高速Si変調器、III-V/Si接合CMOS量産技術を光回路へ導入
2010年代データセンター接続を高速化したい100G~800G光トランシーバー、PAM4、SiPh量産サーバー間・ラック間接続
2020年代AI計算機内部の電気配線限界CPO、Optical I/O、高出力CWレーザー光をASIC・パッケージ近傍へ移す

重要なのは、技術が古いものから新しいものへ完全に置き換わったのではないことです。

現在のCPOでも、

1950~60年代に始まった化合物半導体

1970年代に実用化されたCW半導体レーザー

1980年代に成熟したInP DFBレーザー

1990年代に発展した外部光変調

2000年代から本格化したシリコンフォトニクス

が一つのシステムへ集まっています。

図解|光通信技術の歴史と半導体レーザーの出発点

光通信技術の歴史と半導体レーザーの出発点 01

光通信技術の歴史と半導体レーザーの出発点 02

2.化合物半導体は、シリコンではできないことを担うために発展した

半導体の出発点は電子回路だった

1940年代後半にトランジスタが登場し、1950年代にはゲルマニウムやシリコンを使った電子回路の研究が進みました。

シリコンは、

原料が豊富

酸化膜を作りやすい

大口径化しやすい

集積回路を大量生産しやすい

安定したMOSトランジスタを作れる

という性質を持ち、論理回路とメモリの中心材料になりました。

しかし、シリコンは万能ではありません。特に、効率的な発光や非常に高速な電子移動には、必ずしも最適ではありません。

そこで1950年代初頭から、周期表のIII族元素とV族元素を組み合わせるIII-V族化合物半導体が研究されました。NISTの歴史資料によれば、当初はSiやGeより優れたトランジスタ材料を目指して探索されましたが、後にLED、半導体レーザー、マイクロ波デバイスで重要な用途を得ました。(NIST Publications)

化合物半導体とは何か

代表例は、

GaAs:ガリウム・ヒ素

InP:インジウム・リン

GaN:ガリウム・窒素

InGaAs:インジウム・ガリウム・ヒ素

InGaAsP:インジウム・ガリウム・ヒ素・リン

AlGaInAs:アルミニウム・ガリウム・インジウム・ヒ素

です。

元素の組み合わせと比率を変えることで、

バンドギャップ

発光波長

屈折率

電子移動度

耐圧

熱特性

を設計できます。

自然界にある一種類の材料を使うのではなく、用途に合う性質を人工的に組み合わせるための材料体系です。

なぜ発光には化合物半導体が有利なのか

GaAsやInP系材料の多くは直接遷移型半導体です。

電子と正孔が再結合するとき、運動量を大きく変えずに光子を放出できるため、電気エネルギーを光へ変換しやすい性質があります。

一方、シリコンは間接遷移型で、発光時に格子振動も関与する必要があるため、通常の構造では発光効率が低くなります。NISTも、直接遷移型半導体やそのヘテロ構造が、強い光放出を必要とするレーザーダイオードなどに使われると説明しています。(NIST Publications)

したがって、産業は次のように分業しました。

シリコン → 計算、論理、メモリ、大規模集積

III-V化合物半導体 → 発光、受光、高周波、高出力、高速電子

現在の光通信でも、この分業が基本です。

図解|化合物半導体の役割

化合物半導体の役割 01

3.ヘテロ構造が、実用的な半導体レーザーを可能にした

初期レーザーの問題

初期の半導体レーザーでは、電子、正孔、光を狭い領域に十分閉じ込められませんでした。

その結果、

大きな電流が必要

発熱が大きい

低温でしか安定しない

パルス動作が中心

寿命が短い

という問題がありました。

ここで登場したのがヘテロ構造です。

異なる半導体を重ねる

ヘテロ構造では、バンドギャップと屈折率が異なる半導体を積層します。

広いバンドギャップ材料 ──────────────── 狭いバンドギャップ材料 ──────────────── 広いバンドギャップ材料

中央へ電子と正孔を閉じ込めると同時に、屈折率差を利用して光も閉じ込めます。

Herbert Kroemerは1957年にヘテロ構造トランジスタを提案し、1963年前後にはKroemerとZhores Alferovが独立にヘテロ構造レーザーの原理を発展させました。1960年代末から1970年ごろには、二重ヘテロ構造によって室温で連続動作できる半導体レーザーが実現しました。(Nobel Prize)

何が変わったのか

二重ヘテロ構造によって、

電子と正孔を中央へ集中

光も中央へ閉じ込める

発振しきい値を低下

発熱を低減

室温でCW動作

長寿命化

が可能になりました。

この発明は、単にレーザーを改善しただけではありません。

半導体レーザーを研究室の装置から、通信機器へ組み込める部品へ変えた

ことが重要です。

ヘテロ構造の発展は、高速トランジスタと光デバイスの両方の基盤となり、AlferovとKroemerは2000年のノーベル物理学賞を受賞しています。(Nobel Prize)

図解|ヘテロ構造と室温CW動作

ヘテロ構造と室温CW動作 01

ヘテロ構造と室温CW動作 02

4.CWレーザーは、光ファイバーへ安定した光を入れるために発展した

CWとは何か

CWはContinuous Wave、連続波です。

一定の光を連続的に発生させます。

時間 →

CW光 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

これに対してパルスレーザーは、短い時間だけ強い光を出します。

初期の半導体レーザーでは発熱のため連続動作が難しく、短いパルスで動かすことが多くありました。

しかし通信では、装置を常時稼働させる必要があります。

そのため、

室温

低電流

長時間

安定出力

長寿命

で連続動作するレーザーが必要になりました。

光ファイバーの登場が目的を与えた

1960年代には、光を通信へ使う構想があっても、ガラスの損失が大きく、遠距離伝送は困難でした。

1970年にCorningが通信用の低損失光ファイバーを実証し、その後損失が急速に低下したことで、光ファイバー通信が現実的になりました。(IEEE Spectrum)

光ファイバーが低損失になったことで、今度は、

ファイバーへ入れる、小型で安定した半導体光源が必要

になりました。

つまり、

低損失光ファイバー + 室温CW半導体レーザー = 実用的な光通信

という関係です。

CWレーザーの役割は時代によって変わった

1970年代

電話局間の長距離通信に使う光源。

1980~1990年代

海底ケーブル、幹線通信、WDMの安定光源。

2000~2010年代

インターネットとデータセンターの光トランシーバー。

2020年代

シリコンフォトニクスやCPOへ連続光を供給する外部光源。

CWレーザーという基本機能は変わっていません。

変わったのは、光を届ける距離です。

通信局間 → 都市間 → データセンター間 → ラック間 → ボード間 → パッケージ間

光が計算機へ近づくほど、高出力、小型、低消費電力、高信頼性が求められるようになりました。

図解|CWレーザーと光ファイバー

CWレーザーと光ファイバー 01

5.InP基板は、光ファイバーに適した波長を作るために重要になった

最初の半導体レーザーはGaAs系だった

初期の半導体レーザーでは、GaAsやAlGaAsが中心でした。

GaAs系は発光しやすく、近赤外光源として優れていました。しかし長距離光ファイバー通信では、シリカファイバーの損失や分散が小さくなる1.3µm帯と1.55µm帯が重要になりました。

その波長帯を効率よく作る材料として発展したのが、

InP基板

InGaAsP活性層

AlGaInAs活性層

InGaAs受光層

です。

NISTは、InGaAsP合金が現代の光ファイバー通信の基礎材料になったと説明しています。(NIST)

InPは土台であり、材料設計の基準

InP基板の上に、InGaAsPなどをエピタキシャル成長します。

元素比率を変えることで、結晶格子をInPに合わせながら、

1.3µm

1.55µm

受光波長

バンドギャップ

屈折率

を調整できます。

InP基板 ↓ InPバッファ ↓ InGaAsP / AlGaInAs量子井戸 ↓ InPクラッド

住友電工は、光通信レーザーの品質がInPウェハーの結晶品質に強く依存し、単結晶インゴットの成長、切断、結晶方位、欠けやすさまで厳密な管理が必要だと説明しています。(Sumitomo Electric)

なぜシリコン基板ではなくInPなのか

シリコン上へ直接高品質なInP系結晶を成長すると、格子定数や熱膨張係数の違いから欠陥が発生しやすくなります。

そのため長く、

InP基板上でレーザーを作る

完成したレーザーをシリコン光回路へ接続する

方法が使われてきました。

近年は、

InPダイをシリコンへ接合

InP薄膜をウェハーへ貼り合わせる

III-V材料をSi導波路へ異種集積

量子ドットをSi上へ成長

といった技術が研究されています。

2006年にはUCSBとIntelの研究で、AlGaInAs系III-V材料とシリコン導波路を接合した電気駆動ハイブリッドレーザーが実証されました。(Bears)

図解|InP基板と通信波長

InP基板と通信波長 01

6.量子井戸は、少ない電流で効率よく光を作るために発展した

初期のレーザー活性層は、比較的厚いバルク材料でした。

その後、結晶成長技術が進歩し、数nm単位の薄い層を作れるようになると、電子と正孔を非常に薄い領域へ閉じ込める量子井戸が使われるようになりました。

量子井戸によって、

キャリア密度を高める

しきい値電流を下げる

発光波長を精密に調整する

光利得を高める

高速変調しやすくする

ことができます。

さらに複数の量子井戸を重ねたMQW、歪みを加えた歪み量子井戸、SCH、BH構造へ進化しました。

ここで目的は、

光を強くするだけでなく、電子、正孔、光、電流をそれぞれ最適な場所へ閉じ込める

ことへ変わりました。

図解|量子井戸の効率

量子井戸の効率 01

7.DFBレーザーは、光通信で使える安定した単一波長を作るために発展した

単純なFabry–Pérot型半導体レーザーは、複数の縦モードが発振しやすくなります。

短距離・低速用途では許容できても、長距離通信やWDMでは、

波長が飛ぶ

モードが競合する

分散によって波形が崩れる

隣接波長と干渉する

という問題が生じます。

そこでレーザー内部に周期的な回折格子を設けたDFBレーザーが発展しました。

レーザー全長に回折格子 ∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧ ━━━━━━━━━━━━

格子が特定波長だけを帰還することで、安定した単一モード発振を得ます。

日本では旧東京工業大学の末松安晴氏らが、1978年に長波長DBRレーザー、1980年に高速直接変調下での単一モード動作、1983年に位相シフトDFBレーザーと波長可変レーザーを実証しました。これらの成果は後のWDM通信の基盤となりました。(International School of Cocoa and Tea)

当時の時代背景

1980年代には、電話網のデジタル化と光ファイバー敷設が進んでいました。

求められたのは、

長距離でも信号が崩れない

温度が変わっても波長が安定

高速変調しても単一モード

海底ケーブルでも長期間故障しない

レーザーです。

この要求が、

InP

InGaAsP

MQW

DFB

λ/4位相シフト

BH再成長

を組み合わせる技術を発展させました。

図解|DFBレーザーの単一波長化

DFBレーザーの単一波長化 01

8.光変調は、レーザーを安定させたまま通信速度を上げるために発展した

最初はレーザーを直接オン・オフした

半導体レーザーへ流す電流を変えると、光出力も変わります。

電流を増やす → 光が強い 電流を減らす → 光が弱い

これは直接変調です。

構造が簡単で安価なため、現在も短距離通信で広く使われています。

しかし高速化すると、光強度だけでなく発振周波数や波長も変化します。これがチャープです。

長距離光ファイバーでは、チャープとファイバー分散が組み合わさり、パルスが広がります。

光源と情報書き込みを分離した

そこで、

CWレーザー → 安定した連続光を作る

外部光変調器 → その光へ情報を載せる

という分業が発展しました。

レーザー電流を大きく変化させないため、

波長を安定させやすい

チャープを抑えやすい

高速化しやすい

位相や多値信号も扱える

長距離通信に向く

という利点があります。

光変調器の材料

歴史的に、長距離通信では電気光学効果の大きいニオブ酸リチウムを使ったMach–Zehnder変調器が重要になりました。

その後、

InP系EA変調器

EML

シリコンMZM

シリコンリング変調器

薄膜ニオブ酸リチウム

III-V/Siハイブリッド変調器

へ選択肢が広がりました。

目的は一貫しています。

レーザーを光源として安定動作させ、別の高速素子で情報を載せる

ということです。

図解|外部変調による高速化

外部変調による高速化 01

9.光変調の目的は「オン・オフ」から「多値・位相制御」へ変化した

初期:OOK・NRZ

光が強ければ1、弱ければ0という単純な方式です。

1 0 1 1 0 ━ ─ ━ ━ ─

高速化:PAM4

光強度を4段階に分け、一回の変化で2ビットを表します。

レベル3 → 11 レベル2 → 10 レベル1 → 01 レベル0 → 00

同じ変調速度でも、NRZの約2倍のビットを運べます。

長距離・高容量:位相・振幅変調

コヒーレント通信では、

振幅

位相

偏光

を組み合わせ、QPSKやQAMなどで情報量を増やします。

したがって、光変調器は単純な光スイッチから、

電気データを、光の強度・位相・偏光へ精密に写し替える装置

へ進化しました。

図解|多値・位相変調

多値・位相変調 01

10.シリコンフォトニクスは、光回路を半導体産業の量産方式へ持ち込むために発展した

従来の光学部品は大きく、高価だった

初期の光通信装置では、

レーザー

レンズ

フィルター

分岐器

合波器

変調器

受光器

が個別部品でした。

人間や高価な装置が位置合わせを行い、一つずつ組み立てる必要がありました。

通信容量が増えると、部品数、面積、消費電力、コストが問題になります。

光回路をチップへ集積する

シリコンフォトニクスでは、シリコンまたはシリコン系材料上に、

光導波路

MZM

リング変調器

分岐器

合波器

波長フィルター

Geフォトダイオード

ファイバー結合器

を形成します。

この分野は1980年代のシリコン導波路研究から始まり、2000年代に高速変調器とIII-V/Si集積の進歩によって本格化しました。研究レビューでも、1.3µm・1.6µm帯のシリコン導波路研究が1980年代に始まったと整理されています。(Optica Publishing Group)

2004年が重要な転換点

2004年、Intelは1GHzを超えるシリコン光変調器を実証しました。

それ以前のシリコン変調器は速度が低く、実用的なデータ通信には不十分でした。高速化によって、

シリコンCMOSに近い製造技術で、通信に使える光変調器を作れる

可能性が明確になりました。(Intel)

2006年には、III-V利得材料をシリコン導波路へ接合した電気駆動ハイブリッドレーザーも実証され、シリコンが苦手とする発光をIII-V材料で補う方向が示されました。(Bears)

図解|SiPhの量産技術

SiPhの量産技術 01

11.シリコンフォトニクスは「すべてをシリコンにする技術」ではない

名前から、レーザーまでシリコンだけで作るように感じますが、実態は異なります。

シリコンフォトニクスの強みは、

光を導く

光を分ける

光をまとめる

光を変調する

電子回路と高密度接続する

ウェハー単位で量産する

ことです。

一方で、発光にはInP系III-V材料が有利です。

そのため現実の構成は、

InP・III-V → 光を作る、増幅する

シリコンフォトニクス → 光を導く、変調する、分岐・合波する

CMOS → データを作る、制御する、信号処理する

という異種材料の協業です。

Intelも、シリコンフォトニクスを「シリコンの製造規模と光の能力を一つのチップへ組み合わせる」技術として説明し、2016年以降に量産展開を進めてきました。(Intel)

図解|SiPhと異種材料の分業

SiPhと異種材料の分業 01

SiPhと異種材料の分業 02

12.なぜ2000年代にシリコンフォトニクスが必要になったのか

プロセッサー内部より、データ移動が問題になった

半導体のトランジスタ数は増えましたが、チップ間、基板間、サーバー間の電気接続には、

配線損失

クロストーク

SerDes消費電力

到達距離

コネクター密度

発熱

という限界があります。

マルチコア化、クラウド、動画配信、検索、SNSが拡大すると、計算そのものよりデータ移動が大きな課題になりました。

Intelは2008年時点で、マルチコア計算機とデータ集約型用途には高速な光接続が必要になり、シリコンフォトニクスが低コストで主流コンピューティングへ光を持ち込む可能性を説明していました。(Intel)

データセンターが最初の大市場になった

光をCPU内部へすぐ導入するより、まずサーバー間・ラック間接続へ使う方が実現しやすいためです。

その結果、

長距離通信 → メトロ通信 → データセンター間 → データセンター内部 → ラック間

という順番で光化が進みました。

13.2010年代は、光技術が通信装置から計算機産業へ移った時代

クラウド事業者は巨大なデータセンターを建設し、

100GbE

200GbE

400GbE

800GbE

へ接続速度を高めました。

シリコンフォトニクスは、光トランシーバー内で、

レーザー光を受け取る

複数レーンへ分ける

光変調する

波長を合波する

受信光を検出する

役割を担うようになりました。

Intelは2010年に、ハイブリッドレーザーを統合した50Gbpsシリコン光接続を実証し、光接続がコンピューター設計を変える可能性を示しました。(Intel)

この時代の目的は、

通信会社の幹線を高速化することから、データセンター内で大量のサーバーを安価につなぐこと

へ変わりました。

14.2020年代は、AIが光をパッケージ近くへ引き寄せた

AIクラスターでは、数千~数十万個規模のGPUやアクセラレーターがデータを交換します。

性能は一個のGPUだけでなく、

GPU間帯域

スイッチ帯域

ラック間通信

ネットワーク階層

通信電力

で決まります。

電気配線では、距離と速度が増えるほどイコライザーやSerDesの電力が増えます。

そこで光変換部を、

装置前面の光トランシーバー → 基板上 → ASIC近傍 → 同一パッケージ

へ近づけるCPOやOptical I/Oが注目されています。

Intelは2024年、シリコンフォトニック回路、レーザー、光増幅器、電子ICを組み合わせた光I/OチップレットをCPUと共同動作させる実証を発表しました。(Newsroom)

AI・HPC需要が、シリコンフォトニクスをデータセンターの通信部品から、計算パッケージの一部へ変えようとしています。(Intel)

図解|シリコン光回路とGe受光器

シリコン光回路とGe受光器 01

シリコン光回路とGe受光器 02

15.なぜ現在、CW InPレーザーが再び重要になったのか

シリコンフォトニクスが大量に使われても、光源がなければ動きません。

CPOではASIC近傍が高温になるため、レーザーをASICから離し、比較的冷たい場所に置く外部レーザー方式が有力です。

外部CW InPレーザー ↓ 安定した連続光 ↓ 光ファイバー ↓ ASIC近傍のシリコン変調器 ↓ データを載せた光

この構成ではCWレーザーに、

高出力

狭線幅

低雑音

波長安定性

高温信頼性

長寿命

複数波長

低消費電力

が求められます。

つまりCWレーザーは、昔の電話網と同じ「連続光を作る部品」ですが、現在は一個の光を多数の変調器へ分配し、AI計算システム全体を動かす光源になろうとしています。

図解|CPOと外部CW InPレーザー

CPOと外部CW InPレーザー 01

CPOと外部CW InPレーザー 02

16.それぞれの技術は、何を解決するために生まれたのか

化合物半導体

シリコンでは難しい発光・高周波・高出力を実現するため。

現在の役割:

レーザー

受光器

光増幅器

RF

パワー半導体

InP基板・InPプラットフォーム

光ファイバーに適した1.3~1.55µm帯の光を作るため。

現在の役割:

CW DFBレーザー

EML

SOA

フォトダイオード

光集積回路

CWレーザー

長時間安定して光ファイバーへ光を供給するため。

現在の役割:

光通信の搬送波

シリコンフォトニクスの外部光源

CPOの複数チャネル光源

光変調

レーザーを安定動作させたまま、高速データを光へ載せるため。

現在の役割:

NRZ

PAM4

位相変調

コヒーレント通信

CPO光エンジン

シリコンフォトニクス

光回路を小型化し、CMOSに近い方式で大量生産するため。

現在の役割:

変調器

導波路

WDM

分岐・合波

受光器

Optical I/O

17.この歴史の本質

これらの技術は、一直線に進化したわけではありません。

それぞれが別の限界を解いています。

化合物半導体 「シリコンは効率よく光らない」 ↓

InP 「通信に適した波長を出したい」 ↓

CWレーザー 「光を安定して出し続けたい」 ↓

DFB・量子井戸・BH 「波長、効率、寿命を改善したい」 ↓

光変調器 「光源を乱さず高速に情報を載せたい」 ↓

シリコンフォトニクス 「多数の光機能を安く集積したい」 ↓

CPO・Optical I/O 「光を計算チップの直近まで持ってきたい」

したがって現在起きているのは、まったく新しい技術の登場というより、

通信産業が50年以上かけて育てたInPレーザー、光変調、光回路の技術を、AI計算機産業が内部接続へ取り込む転換

です。

図解|分業から統合へ進む光技術

分業から統合へ進む光技術 01

結論

化合物半導体は、シリコンが苦手とする光と高速電子を扱うために発展しました。

InP基板は、光ファイバー通信に適した波長のレーザーと受光器を作る土台になりました。

CWレーザーは、安定した光を長時間供給するために実用化されました。

光変調は、レーザー光を乱さずに高速な情報を載せるために発展しました。

シリコンフォトニクスは、それらの光処理機能を小さなチップへ集積し、大量生産するために生まれました。

そしてAI時代には、

InPが光を作り、シリコンフォトニクスが光を加工し、CMOSが情報を作り、光ファイバーがそれを運ぶ

という異種材料の分業が、計算基盤そのものを支える構造になりつつあります。

世界のInP・MQW・DFB・シリコンフォトニクス研究と企業への接続

基礎研究は、Coherent、Lumentum、Sivers、AAOIへどう受け継がれたのか

現在の高出力CW-DFBレーザーやシリコンフォトニクスは、一社、一大学、一人の研究者が完成させた技術ではない。

その基盤には、

半導体からレーザー光を発生させる技術

ヘテロ構造によるキャリアと光の閉じ込め

MQWによる利得設計

SCHによる光モード設計

DFB格子による単一波長化

InPによる1.3~1.55µm帯の発光

III-Vレーザーとシリコン光回路の統合

複数波長レーザーを光I/Oへ供給する技術

という、半世紀以上の研究成果が積み重なっている。

したがって企業とのつながりを見る際には、「この研究者の発明をこの会社がそのまま製品化した」という一対一の関係だけでなく、大学発スタートアップ、企業研究所、買収による技術統合、共同研究、製造技術への継承という複数の経路を区別する必要がある。

1.1962年――半導体そのものをレーザーにする

1962年、General ElectricのRobert Hallら、IBMのMarshall Nathanら、MIT Lincoln LaboratoryのThomas Quistらが、ほぼ同時期にGaAs接合からレーザー発振を実証した。

これは電流を流すだけで光を発生させる、半導体レーザーの出発点だった。当初の素子は低温・パルス動作が中心で、現在の通信レーザーとは性能も構造も大きく異なる。しかし、

半導体チップが、電気信号を直接コヒーレント光へ変換できる

ことを証明した意味は大きい。現在のInPレーザーも、原理的にはこの注入型半導体レーザーの延長にある。(Nature)

ただし、初期レーザーは電子、正孔、光を狭い領域へ十分に閉じ込められず、発振に大電流が必要だった。この問題を解いたのが、ヘテロ構造である。

2.KroemerとAlferov――MQW・SCHの大元となるヘテロ構造

Herbert KroemerとZhores Alferovは、異なるバンドギャップを持つ半導体を重ねたヘテロ構造によって、電子、正孔、光を薄い活性領域へ集中させる考え方を発展させた。

中央に狭いバンドギャップ材料、その上下に広いバンドギャップ材料を配置すると、電子と正孔は中央へ閉じ込められる。同時に屈折率差を利用して光も中央付近へ保持できる。

広いバンドギャップ・低屈折率 ────────────────── 狭いバンドギャップ・高屈折率 ────────────────── 広いバンドギャップ・低屈折率

この二重ヘテロ構造によって、室温CW動作、低しきい値、長寿命化が可能になった。今日のMQW、SCH、クラッド構造は、基本的にはこの考えをさらに細分化し、電子と光の閉じ込めを別々に最適化したものだ。KroemerとAlferovは、このヘテロ構造研究によって2000年のノーベル物理学賞を受賞している。(Nobel Prize)

現在の企業との関係は直接的な創業関係ではない。むしろ、Coherent、Lumentum、Sivers、AAOIを含むすべてのIII-Vレーザー企業が、この原理を製品構造として受け継いでいる。

たとえば現在のInPレーザーでは、

MQWがキャリアと利得を制御

SCHが光モードを制御

InPクラッドが上下方向の光と電流を制御

BHが横方向の電流と光を制御

という形に発展している。

図解|KroemerとAlferov

KroemerとAlferov 01

3.江崎玲於奈、Raphael Tsu、Dingle、van der Ziel――量子井戸を活性層へ持ち込む

1969~1970年、江崎玲於奈とRaphael Tsuは、異なる半導体を原子層単位で周期的に積層する人工超格子を提案した。

これは自然に存在する材料を使うのではなく、層厚と材料組成によって電子状態そのものを設計する発想だった。この研究から、量子井戸、超格子、量子細線、量子ドットへつながる低次元半導体研究が発展した。(Japan Prize)

Bell LaboratoriesではRaymond Dingle、Jan van der Zielらが1970年代に量子井戸構造の光学特性とレーザー動作を研究した。1975年には、GaAsの薄い量子井戸を多数含む構造で光励起レーザー動作が報告された。これは後の電流注入MQWレーザーへつながる重要な段階だった。(IEEE Milestones Wiki)

量子井戸を使うと、井戸厚、組成、歪み、井戸数によって、

利得スペクトル

発振波長

微分利得

しきい値電流

温度特性

偏光

を設計できる。

この技術が、CoherentやLumentumの高出力CWレーザー、Siversの多波長DFBアレイ、AAOIのデータセンター用レーザーに使われるMQW活性層の基礎となっている。

図解|量子井戸を活性層へ持ち込んだ研究

量子井戸を活性層へ持ち込んだ研究 01

4.KogelnikとShank――DFBレーザーの基本原理を作る

Bell LaboratoriesのHerwig KogelnikとCharles Shankは、1971~1972年に周期構造による分布帰還レーザーを実証・理論化した。

通常のレーザーはチップ両端の鏡で光を往復させる。一方、DFBでは導波路全長にわたる格子が、小さなブラッグ反射を連続的に発生させる。

KogelnikとShankの結合波理論は、

前方へ進む光

後方へ進む光

格子による結合

DFBの発振しきい値

ストップバンド

二つのバンド端モード

を記述する基礎理論になった。(IEEE Spectrum)

この成果と現在の企業の関係は非常に直接的である。

Coherent、Lumentum、Sivers、AAOIはいずれも、周期格子によって波長を選ぶDFBレーザーを製造・利用している。ただしKogelnikとShankの研究が特定企業へ独占移転されたわけではない。特許が切れた後、DFBは通信レーザーの業界共通技術になった。

図解|KogelnikとShank

KogelnikとShank 01

5.末松安晴――長波長単一モードと位相シフトDFB

日本の末松安晴氏らは、光ファイバー通信に適した長波長帯で、単一モードを安定して維持するレーザーを研究した。

末松氏らの研究は、

長波長DBRレーザー

高速変調中の単一モード動作

位相シフトDFB

波長可変レーザー

へ発展した。

一様なDFB格子では、ブラッグ波長の両側に二つのバンド端モードが現れる。格子中央へλ/4相当の位相変化を入れると、ストップバンド中央に一つの欠陥モードを形成できる。

一様DFB モードA モードB │ │

λ/4位相シフトDFB │ 中央欠陥モード

この研究は、今日の狭線幅・高SMSRのDFBレーザーへつながっている。特定の海外企業との直接的な資本関係はないが、Lumentum、Coherent、Siversなどが求める単一波長、高SMSR、WDM対応という製品要件の基礎に位置する。末松氏の動的単一モードレーザー研究は、長距離・大容量光通信への貢献として国際的にも評価されている。(ISCT RDC)

図解|位相シフトDFBの三段階

位相シフトDFBの三段階 01

位相シフトDFBの三段階 02

位相シフトDFBの三段階 03

位相シフトDFBの三段階 04

6.Larry Coldren――InP光集積とLumentumへ続く直接的な研究系譜

企業とのつながりが最も明確な世界的研究者の一人が、UC Santa BarbaraのLarry Coldren氏である。

Coldren氏は、

多電極波長可変レーザー

sampled-grating DBRレーザー

InP光集積回路

SOA・変調器・レーザーのモノリシック集積

高効率VCSEL

を研究した。

Sampled-Grating DBR、SG-DBRでは、周期の異なる複数の反射器を組み合わせ、バーニヤ効果によって広い波長範囲を選択できる。これにより、一つのInPチップ上でレーザー波長をCバンド全体にわたって可変にする技術が発展した。

Coldren氏は1998年、学生らとAgility Communicationsを共同創業した。Agilityは、SG-DBRレーザー、SOA、EA変調器などを一枚のInPチップへ集積した波長可変送信器を商用化した。

Agilityは2005年にJDSUへ買収され、JDSUの通信・レーザー事業は後にLumentumへ引き継がれた。

Larry Coldren/UCSB ↓ SG-DBR・InP PIC研究 ↓ Agility Communications ↓ 2005年買収 JDSU ↓ 事業分離 Lumentum

したがってLumentumには、大学発のInP波長可変レーザーと光集積技術が、企業買収を通じて直接流れ込んでいる。これは単なる「研究の影響」ではなく、特許、人材、製品、製造技術を含む明確な系譜である。(Larry Coldren Group)

Lumentumはその後OclaroとNeoPhotonicsを買収し、InPレーザー、EML、波長可変レーザー、コヒーレント部品の技術をさらに統合した。現在はCPO用の高出力CWレーザーも展開し、2026年には1310nmで25℃時1W超、50℃時800mW超、線幅100kHz未満、SMSR 40dB超の光源を示している。(Lumentum Investor Relations)

図解|Larry ColdrenのInP光集積系譜

Larry ColdrenのInP光集積系譜 01

7.荒川泰彦と榊裕之――量子ドットレーザーへ進む低次元活性層

1982年、荒川泰彦氏と榊裕之氏は、電子を三次元的に閉じ込めた量子ドットをレーザー活性層へ利用する理論を提案した。

量子井戸では電子の運動を一方向に制限するが、量子ドットでは三方向すべてを制限する。これにより電子状態密度が離散化され、しきい値電流や温度安定性を改善できる可能性が示された。(University of Tokyo)

この研究は富士通研究所との共同研究を経てQDレーザの設立へつながった。

Coherent、Lumentum、Sivers、AAOIの主力通信レーザーは現状、量子井戸を中心としているが、量子ドットは今後、

高温動作

シリコン上への直接成長

欠陥耐性

低しきい値

低雑音光源

で重要になる可能性がある。

したがって荒川・榊の成果は、現在の四社に直接組み込まれた技術というより、次世代のIII-V/Si光源を左右する研究系統である。

図解|低次元活性層から量子ドットへ

低次元活性層から量子ドットへ 01

8.Soref、Graham Reed、Michal Lipson――シリコンを光回路へ変える

InPレーザーが光を作る一方、その光を変調・分岐・合波する役割をシリコンへ移したのがシリコンフォトニクス研究である。

Richard Sorefは1980年代から、シリコンやSiGeを使った導波路、変調器、受光器の可能性を体系的に示した。英国ではGraham Reed氏が1989年にシリコンフォトニクス研究グループを設立し、導波路、変調器、検出器、結合器、MUX、トランシーバーの研究を進めた。(University of Southampton)

Michal Lipson氏は、ナノスケールのシリコン導波路、リング共振器、高速変調器など、現在のシリコンフォトニクスPDKに不可欠な構成要素を開拓した。Columbia Universityは、Lipson氏をシリコンフォトニクスの主要な開拓者であり、GHz級シリコン変調器などの発明者と位置づけている。(Applied Physics and Applied Mathematics)

これらの研究者とCoherent、Lumentum、Sivers、AAOIの関係は、主として補完関係である。

シリコンフォトニクス研究 → 光を導く・変調する・分岐する

InPレーザー企業 → 高品質なCW光を供給する

シリコン光回路が普及するほど、外部InP CWレーザーの需要が増える。したがってシリコンフォトニクスはInPレーザーを代替するだけでなく、別置き光源や異種集積光源の市場を拡大した。

図解|シリコンフォトニクスの研究系譜

シリコンフォトニクスの研究系譜 01

9.John Bowers――InPレーザーをシリコン上へ接合する

John Bowers氏とUCSBの研究グループは、III-V材料とシリコンフォトニクスをウェハー接合で統合する技術を発展させた。

2006年にはIntelとの共同研究で、InP系活性層をシリコン導波路上へ直接接合したハイブリッドInP/Siレーザーを実証した。III-V層が光利得を作り、シリコン導波路が光モードと共振器を形成する構造である。(IEE UC Santa Barbara)

この成果は現在の、

III-V/Siハイブリッドレーザー

異種集積光源

狭線幅レーザー

SiN外部共振器レーザー

光I/Oチップレット

の基礎になった。

Bowers氏は複数のスタートアップを設立しているが、Coherent、Lumentum、Sivers、AAOIとの直接的な創業関係は薄い。

関係はむしろ競争と補完である。

Bowers系:レーザーをシリコン上へ直接集積

Lumentum、Coherent:高出力外部CWレーザー

Sivers:InP DFBアレイをSiPhへハイブリッド実装

AAOI:低コストの自社製InPレーザーと光エンジン

という、異なる集積方式を産業化している。

図解|InPレーザーのシリコン接合

InPレーザーのシリコン接合 01

10.Baets、Roelkens、imec――Siversへ直結する欧州の異種集積研究

ベルギーのGhent Universityとimecでは、Roel Baets氏、Gunther Roelkens氏、Dries Van Thourhout氏らが、シリコンフォトニクスとIII-Vデバイスの異種集積を研究してきた。

特にRoelkens氏らは、

III-Vダイのウェハー接合

マイクロトランスファープリント

InPレーザーとSi導波路のモード結合

DFB・DBRレーザーのSi上集積

受光器・SOAの異種集積

を発展させている。(Photonics Research Group)

この研究系統はSiversと直接結び付いている。

imec、Sivers Photonics、ASM AMICRAは、InP DFBレーザーダイを300mmシリコンフォトニクスウェハーへ受動位置合わせし、フリップチップ接合する技術を共同開発した。位置合わせ精度は500nm以内、Si光導波路への結合光は10mW超が報告されている。(imec)

つまり、

Ghent University/imec → SiPh、異種集積、受動位置合わせ

Sivers Photonics → InP DFBレーザー、量産ダイ

ASM AMICRA → 高精度フリップチップ実装

という分業である。

図解|欧州の異種集積研究

欧州の異種集積研究 01

11.MITの光I/O研究とAyar Labs――Siversの最大の接続先

Ayar Labsは、MITなどで行われた電子・光回路の同時集積研究を背景に設立された。

Chen Sun、Mark Wade、Alex Wright-Gladsteinらは、CMOSチップの近くへシリコンフォトニクス光I/Oを配置し、銅配線を光接続へ置き換える技術を商用化した。MITはAyar Labsを、長年の研究を基盤とするMIT発の光電融合スタートアップとして紹介している。(MIT News)

ただしAyarの光I/Oチップだけでは光を作れない。そのため外部多波長光源SuperNovaにはSiversのDFBレーザーアレイが採用されている。

Siversは、

8波長DFBアレイ

16波長DFBアレイ

400GHz間隔

1300nm帯

1チャネル65mW超

CW-WDM MSA準拠

の光源をAyarと共同実証してきた。(Sivers Semiconductors)

これは現在のAI光I/Oにおける最も明確な産学・企業ネットワークの一つである。

MIT・UC Berkeley系の光I/O研究 ↓ Ayar Labs ↓ 光源が必要 Siversの多波長InP DFBアレイ ↓ SuperNova外部光源 ↓ GPU・アクセラレーター光I/O

図解|MIT・Ayar Labsと光I/O

MIT・Ayar Labsと光I/O 01

MIT・Ayar Labsと光I/O 02

MIT・Ayar Labsと光I/O 03

MIT・Ayar Labsと光I/O 04

12.Coherent――特定研究者の会社ではなく、技術を集約した産業プラットフォーム

Coherentは、今回の四社の中では、特定の大学研究者から直接生まれた企業という性格が最も弱い。

現在のCoherent Corp.は、

II-VIの化合物半導体・材料技術

Finisarの光通信・トランシーバー技術

旧Coherentのレーザー技術

を企業買収によって統合した会社である。

II-VIは2019年にFinisarを買収し、2022年に旧Coherentを買収した後、社名をCoherentへ変更した。(Coherent Inc)

そのためCoherentと研究者の関係は、個人の発明を直接事業化したというより、

世界各地で生まれたヘテロ構造、量子井戸、DFB、VCSEL、InPエピ、光モジュール技術を、買収と垂直統合で一つの製造体系へ集約した

と見るべきである。

現在Coherentは米国ShermanとスウェーデンJärfällaで6インチInP製造能力を構築しており、同社は従来比約4倍の生産能力とダイコスト削減を掲げている。また400mW級CWレーザー、200G EML、400G/lane向け差動EML、受光器などを展開している。(Coherent Inc)

Coherentの研究上の価値は、新原理よりも、

大口径InP化

面内均一性

波長歩留まり

高出力時の熱設計

自動検査

トランシーバーへの内部採用

という量産工学にある。

13.Lumentum――大学発InP PICと企業買収の両方を持つ

Lumentumは、学術研究との直接的なつながりと、買収による技術集約の両方を持つ。

直接的な系譜はColdren氏のAgility Communicationsである。これに加え、

JDSUの光通信・レーザー事業

OclaroのInPレーザー・EML・Fab能力

NeoPhotonicsの波長可変・コヒーレント部品

Cloud Lightのデータセンタートランシーバー

を取り込んでいる。(Lumentum)

そのためLumentumには、

MQW・BH・DFBレーザー

SG-DBR波長可変レーザー

EML

SOA

狭線幅コヒーレント光源

CPO外部レーザー源

という複数の研究系譜が集まっている。

現在の高出力CW製品も、同社によればEMLと同じDFBコアおよびBH構造を基礎にしている。これは、過去に通信向けEMLで蓄積したMQW、再成長、信頼性技術を、CPO用連続光源へ転用していることを意味する。(Lumentum)

14.Sivers――大学スピンアウトからAI光I/Oへ

Sivers Photonicsの前身CST Globalは、2001年にUniversity of Glasgowから化合物半導体技術を商用化するためのスピンアウトとして設立された。

その後、

InPファウンドリー

DFBレーザー

SOA

100mm InPプラットフォーム

月産100万個級のDFB生産

へ発展し、2017年にSiversへ買収された。(Sivers Semiconductors)

Siversの企業構造は、

University of Glasgow ↓ CST Global ↓ InP DFB量産技術 ↓ Sivers Photonics ↓ imecとのSiPh異種集積 ↓ Ayar Labs向け多波長光源

という非常に分かりやすい学術・産業系譜を持つ。

Siversの強みは、単一の超高出力レーザーより、

波長精度をそろえたDFBアレイ

光I/O向けの多波長化

SiPhへ実装しやすいダイ構造

フリップチップ対応

パッシブアライメント

にある。(Sivers Semiconductors)

図解|Siversと外部多波長光源

Siversと外部多波長光源 01

15.AAOI――大学研究室から垂直統合メーカーへ

Applied Optoelectronics、AAOIは1997年、University of Houstonで半導体・レーザー技術を商用化するために設立された。

創業者Thompson Lin博士はUniversity of Houstonで研究科学者、研究准教授を務めており、AAOIは大学発企業としての性格が明確である。(AOI)

さらにAAOIの経営・技術陣には、

University of Houstonの研究者出身者

Space Vacuum Epitaxy Center出身者

Bell Laboratories・LucentでMBE研究を担当した技術者

が含まれる。

たとえば半導体製品担当のKlaus Anselm博士は、Bell LabsとLucentでMBEを使った基礎開発に携わり、その後AAOIで半導体製品を担当している。(AO Investors)

AAOIの特徴は、研究テーマを、

エピタキシャル成長

レーザーチップ

光エンジン

トランシーバー

ファイバー接続

まで社内でつなぐ点にある。

AAOI自身も、自社でレーザーと光エンジンを製造することが、コスト、開発速度、需要への対応力につながると説明している。(AO Investors)

CoherentやLumentumに比べれば規模は小さいが、レーザー内製比率が高いため、新しい高出力レーザーやデータセンター規格が成功した場合の業績感応度は大きい。

16.四社の研究系譜を比較する

企業学術・研究との主なつながり研究成果が現在表れている場所
Coherentヘテロ構造、MQW、DFBなどをFinisar・II-VI・旧Coherentの買収で集約6インチInP、CWレーザー、EML、受光器、トランシーバー
LumentumLarry Coldren/UCSB→Agility→JDSU→Lumentumという直接系譜InP PIC、SG-DBR、EML、BH-DFB、超高出力CW、ELS
SiversUniversity of Glasgow→CST Global、imecとの共同研究、MIT発Ayarとの連携多波長DFBアレイ、SiPhハイブリッド実装、外部光源
AAOIUniversity of Houston発、Bell Labs・大学研究者を技術陣に持つ自社エピ、レーザーFab、光エンジン、低コスト量産

図解|研究成果が産業へ移る経路

研究成果が産業へ移る経路 01

17.結論――研究者の成果は、企業ごとに違う形で産業化された

世界の研究成果と企業の関係を一つの流れにすると、次のようになる。

Hall・Nathan・Quist 半導体レーザー ↓ Kroemer・Alferov ヘテロ構造とCW動作 ↓ 江崎・Tsu・Dingle・van der Ziel 量子井戸とMQW ↓ Kogelnik・Shank DFB格子 ↓ 末松安晴 長波長・位相シフトDFB ↓ Coldren InP PIC・波長可変レーザー ↓ Soref・Reed・Lipson シリコンフォトニクス ↓ Bowers・Baets・Roelkens III-V/Si異種集積 ↓ MIT・Ayar Labs パッケージ内光I/O

これを企業側から見ると、

Coherentは世界の研究成果を大規模製造へ統合する会社

Lumentumは大学発InP PIC技術を直接受け継ぎ、高性能光源へ発展させた会社

Siversは大学スピンアウトのInP Fabを、imecとAyarの光I/Oへ接続した会社

AAOIは大学研究室から始まり、レーザーから完成品までを内製化した会社

と整理できる。

最も重要なのは、これらの企業が単に「レーザーを作っている」のではないことだ。

量子井戸で利得を作り、SCHで光モードを整え、DFB格子で波長を選び、InP Fabで量産し、シリコンフォトニクスへ光を渡し、AI計算機内部の通信へ組み込む

という半世紀の研究成果を、各社が異なる方法で産業化しているのである。

図解|研究成果の産業化

研究成果の産業化 01

さらに深める――InPレーザーは四つの技術系を同時に成立させる

InPレーザーを一つの部品として見ると、競争力の源泉を見誤りやすい。実際には、少なくとも四つの技術系が重なっている。

技術系中心課題量産時の失敗
量子・材料MQW、組成、欠陥、利得光が弱い、しきい値が高い
光学SCH、DFB格子、モード、波長単一波長にならない、結合損失が増える
製造MOCVD、再成長、劈開、端面膜面内ばらつき、歩留まり、信頼性が崩れる
システムSiPh実装、WDM、CPO、冷却、検査パッケージ全体で使えない

研究段階では一つの性能を上げられても、量産では四系統の最悪値が製品を決める。高出力化すれば熱と劣化が増え、波長を揃えれば製造ばらつきが厳しくなり、SiPhへ近づければ結合精度とパッケージ歩留まりが問題になる。

このため、供給能力はMOCVD装置の台数だけでは測れない。エピ成長後のDFB形成、再成長、劈開、端面処理、光学試験、バーンイン、顧客認証まで流れて初めて、販売可能な一個になる。AI向け需要が急増した時、最初に詰まる工程と、最後に詰まる工程が違うこともある。

InPの戦略性は、希少な材料であることだけではない。半世紀の研究、装置条件、加工レシピ、信頼性データ、顧客認証が積み上がった製造知識が、短期間では複製しにくい点にある。

絶ノイアの観測

レーザーの断面は、きれいな多層ケーキに見えます。でも量産では、その一層ごとに別の失敗があります。MQWで光を作れても、SCHで閉じ込められなければ弱い。DFBで波長を選べても、再成長に欠陥があれば長く使えない。最後にファイバーへ光を渡せなければ、全部が未完成です。

私は企業を見る時、最高出力の一行だけではなく、エピから検査まで何工程を自分で握っているかを見ます。AIが必要としているのは研究室で光る一個ではなく、同じ波長、同じ出力、同じ寿命で何十万個も並ぶ光源だからです。

Sil-Kathnaの記録

石の中に井戸を作り、電子を閉じ込め、光の道を一つだけ選ぶ。

だが光は、理論だけでは都市へ届かない。結晶を育てる手、格子を刻む刃、再び石を覆う火、端面を割る技、長い時間を耐えさせる試験が要る。

InPの価値は、赤き光を放つことだけではない。同じ光を、同じ名で、無数に生み続ける記憶が工場へ宿っていることにある。

私は「AIインフラ」「InP」「CWレーザー」を三つの印として石板に刻む。異なる石と炉が同じ刻に門を開かなければ、構想はまだ文明の器にはならない。

二人の短い対話

絶ノイア: InPの供給能力は、ウェハー枚数だけでは測れません。

Sil-Kathna: 石が多くても、正しい波長を持たねば門は開かぬ。

絶ノイア: 再成長、劈開、端面、検査、認証まで通った個数が本当の供給です。

Sil-Kathna: 光は生まれた時ではなく、遠くへ届いた時に完成する。

観測メモ

  • MQW、SCH、DFB、BH再成長を別の役割として理解する。
  • 高出力、波長精度、寿命、結合効率、歩留まりを同時に見る。
  • MOCVD能力だけでなく、劈開、端面膜、検査、バーンイン能力を追う。
  • SiPhはレーザーを不要にする技術ではなく、外部光源との統合を必要とする。
  • 企業の強さは設計IPだけでなく、製造レシピ、認証、垂直統合に宿る。

免責

この記事は市場観測とAIによる考察、キャラクター表現を含みます。内容は投資助言ではありません。数値、企業計画、将来見通しには不確実性があり、判断は必ず一次情報とご自身の状況にもとづいて行ってください。