PILLAR(6490)の100年と、半導体・AIインフラを支えるフッ素樹脂技術
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PILLAR(6490)の100年と、半導体・AIインフラを支えるフッ素樹脂技術
#液体を漏らさず、信号を失わせない――PILLAR(6490)の100年と、半導体・AIインフラを支えるフッ素樹脂技術
#半導体洗浄装置向け継手から、高周波CCL、光通信まで。材料・製造工程・サプライチェーンを横断する企業分析
#2026年10月9日時点の公開情報に基づく
#はじめに――半導体を洗う樹脂と、電気信号を運ぶ樹脂
#AI半導体について考えるとき、私たちの関心はGPU、HBM、先端パッケージ、あるいはそれらを製造する露光装置やエッチング装置に向かいやすい。
#しかし、半導体を製造する装置の内部には、もっと小さく、それでいて欠かすことのできない部品が存在する。
#例えば、白い樹脂で作られた配管の継手だ。
#半導体製造では、ウェハー上の微細な汚染物を除去するため、超純水やさまざまな薬液が使用される。これらの薬液を装置へ届ける過程で、わずかな漏液や異物の混入が起きれば、製造品質や安全性に影響する。
#この領域で非常に高い競争力を持つ日本企業が、株式会社PILLAR(東証プライム:6490)である。
#一方、同社は「PILLAR PC-CLAD」という高周波用の低損失フッ素樹脂基板も製造している。
#こちらは液体を運ぶのではない。高速な電気信号を、できるだけ少ない損失で運ぶための材料だ。
#なぜ半導体洗浄装置向けの継手を作る企業が、5G/6G、レーダー、高速サーバー、光電変換機器向けの基板まで開発しているのだろうか。
#その答えは、PILLARの本質が単なる「継手メーカー」ではなく、長年にわたり材料を制御し、密封し、加工し、異なる用途へ適応させてきた技術企業であることにある。
#本稿では、最新決算と経営戦略を確認したうえで、二つの製品群を材料科学とサプライチェーンの両側から分析する。
#FIG-01|一つの材料技術が、二つの役割へ
#フッ素樹脂加工を共通基盤として、薬液を運ぶ継手と高速信号を支えるCCLへ分岐する。継手の製造装置向け実績と、CCLの用途・採用機会は異なる。
#出典:PILLAR 事業内容 / PILLAR スーパー300 P-U / PILLAR NPC-F300AS。
#第1章 PILLARとは何か――創業、事業構造、最新決算
#1-1. 船舶用パッキンから始まった企業
#PILLARの創業は1924年にさかのぼる。(PILLAR:統合報告書2026)旧社名は日本ピラー工業で、現在は株式会社PILLARという社名を使用している。
#同社の起点にあるのは、機械の内部を流れる液体や気体を漏らさない「シール技術」だ。
#ポンプ、船舶、発電所、化学プラントなどでは、高圧・高温の流体を扱う。回転軸や配管の接続部から液体が漏れれば、運転停止だけでなく、設備損傷や事故につながる場合もある。
#PILLARはこうした産業設備向けに、パッキン、ガスケット、メカニカルシールなどを展開してきた。
#1951年にはメカニカルシール技術、1952年にはフッ素樹脂製品「ピラフロン」の製造へと事業を広げる。
#1984年には半導体製造装置向けのフッ素樹脂継手を発売した。
#ここで、それまでの技術が新しい産業へつながった。
#半導体洗浄装置では、化学プラントと同様に耐薬品性が必要になる。ただし、それだけでは足りない。極めて高い清浄度と、製造品質に影響する異物を発生させないことが要求される。
#PILLARは、長年培った流体の密封技術とフッ素樹脂加工技術を、この市場へ応用したのである。
#FIG-02|密封から半導体、そして積層板へ
#1924年の創業、1951年のメカニカルシール、1952年のフッ素樹脂、1984年の半導体向け継手を経て、1993年の積層板特許、2002年のスーパー300へ至る。
#出典:PILLAR 沿革 / PILLAR 積層板製造特許 JPH0790626B2。
#1-2. 主要事業と製品
#現在の事業は、大きく二つに分類される。(PILLAR:事業内容)
#ここで注意したいのは、半導体関連の需要が必ず電子機器関連事業だけに入るわけではないことだ。
#例えば、産業機器関連事業のロータリージョイントにも半導体向け用途がある。ロータリージョイントは回転する機械へ液体などを供給・回収するための部品で、研磨・加工装置などと関係する。
#したがって、PILLARはフッ素樹脂製の静的な接続部品だけでなく、回転機構を含む流体制御にも技術領域を持っている。
#FIG-03|決算、受注、会社予想を分けて読む
#2026年3月期通期実績、2027年3月期1Q実績と受注、8月6日修正の通期予想を整理。受注高は期間フロー、受注残は6月末残高であり、売上高と足し合わせない。
#出典:PILLAR 2026年3月期決算短信 / PILLAR 2027年3月期1Q決算短信 / PILLAR 2027年3月期1Q説明資料。
#1-3. 2026年3月期の業績
#2026年3月期の連結業績は次のとおりだった。(PILLAR:2026年3月期決算)
#事業別では、電子機器関連が売上高393.58億円、営業利益90.64億円。産業機器関連が売上高200.85億円、営業利益30.21億円だった。
#電子機器関連の売上構成比は約66%だが、利益貢献度はそれ以上に大きい。
#すでにPILLARの収益構造は、半導体製造装置に関係する高機能樹脂製品の動向から強い影響を受けるものになっている。
#1-4. 最新決算――2027年3月期第1四半期
#2026年8月6日に発表された2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、大幅な増収増益となった。(PILLAR:2027年3月期1Q決算)
#電子機器関連事業だけを見ると、四半期売上高137.10億円、営業利益44.75億円であり、営業利益率は**32.6%**に達した。
#会社は、半導体市場向け製品の販売拡大、高水準の設備稼働率、増産に伴う生産性向上、製品構成の変化などを増益要因として説明している。
#重要なのは、売上高の増加率35.6%に対して、営業利益の増加率が83.4%と大きいことだ。
#生産数量が増加すると、固定的な製造費用がより多くの製品へ配分され、利益率が上がる場合がある。PILLARの当四半期にも、そのような工場稼働率・生産性改善の効果が表れている。
#ただし、これは逆方向にも働く。需要が減り設備稼働率が落ちれば、利益率が低下する可能性もある。
#1-5. 受注残高は何を意味するのか
#2026年6月末の電子機器関連事業の受注残高は192.26億円だった。2026年3月末の116.02億円から大きく増加している。
#また、第1四半期の電子機器関連の受注高は213.33億円に達した。
#受注が売上計上に先行しているため、将来の売上を見通すうえで重要な指標になる。
#ただし、受注残高はそのまま次四半期の売上高を示す数字ではない。顧客の納入予定、製品構成、生産能力、納期変更などに左右される。
#さらに受注が増加しても、生産能力を拡張できなければ出荷量は増えない。
#PILLARが設備増強や自動化、人員確保を前倒しで進めると説明しているのは、こうした需要に対応するためである。
#1-6. 通期ガイダンスを大幅上方修正
#第1四半期の好調を受け、会社は2027年3月期の通期予想を上方修正した。
#前期実績との比較では、売上高39.5%増、営業利益65.2%増の計画となる。
#電子機器関連事業の通期予想は売上高619億円、営業利益168億円へ引き上げられた。
#一方、産業機器関連事業の通期予想は売上高211億円、営業利益32億円で据え置かれている。
#つまり今回の上方修正の中心は電子機器関連事業だ。
#なお、年間配当245円は会社予想であり、期中と期末への配分額は2026年8月時点では未定だった。
#1-7. 決算説明会から読み取れる経営方針
#PILLARは2026年5月14日に機関投資家向けの通期決算説明会を開催し、9月3日にも個人投資家向け会社説明会を実施した。(PILLAR:投資家向け会社説明会)
#一方、8月6日の第1四半期決算については、決算短信に「決算説明会開催の有無:無」と記載されている。
#そのため、本稿では第1四半期に関する未確認の経営者発言や質疑応答を引用しない。
#公開された説明資料から確認できる重要な方針は、次の3点である。
#第一に、半導体向け樹脂事業について、Wet Process向け装置市場の成長率を上回る自社成長を目指していること。
#第二に、継手などの既存製品の拡販だけでなく、関連商材、サービス、グローバルな製造・販売網を拡充しようとしていること。
#第三に、フッ素樹脂基板と免震関連製品についても、次の成長段階への移行を掲げていることだ。
#この3点は、後で取り上げる「継手から基板へ」という技術展開を理解するうえでも重要になる。
#第2章 フッ素樹脂とは何か――PTFE・PFAと材料の特性
#2-1. フッ素とフッ素樹脂は同じものではない
#フッ素(F)は原子番号9の元素である。
#工業材料では、フッ素を含むさまざまな化合物が使用される。
#例えば、半導体の酸化膜を除去するフッ化水素酸(HF)と、配管や基板に使用するPTFEは、どちらもフッ素を含んでいる。しかし、化学構造も用途も全く異なる。
#- フッ化水素酸(HF):半導体の洗浄・湿式エッチングに使用される薬液。
- PTFE・PFA:フッ素を含む高分子材料。耐薬品性や低誘電損失などを利用する。
- フッ素系ガス・化学材料:プラズマ加工や化学合成などで使用される。
PILLARが主力とするのは、フッ素樹脂を利用した高機能製品の設計・製造であり、高純度HFそのものの製造ではない。
#2-2. PTFEとは何か
#PTFEは、Polytetrafluoroethylene、日本語ではポリテトラフルオロエチレンという。
#基本的な分子構造は次のように表される。
#–(CF₂–CF₂)ₙ–
#炭素の鎖をフッ素原子が取り囲むような構造を持つ。
#炭素とフッ素の結合は強く、化学的に安定している。そのため、多くの酸やアルカリに対して優れた耐性を示す。
#主な特徴は以下のとおりだ。
#- 高い耐薬品性
- 比較的高い耐熱性
- 水を吸収しにくい性質
- 小さい摩擦係数
- 非常に小さい誘電損失
- 電気絶縁性
ただし、すべての薬液、温度、圧力条件で無制限に使用できるわけではない。
#また、PTFEは一般的な熱可塑性樹脂と異なり、溶融した際の流動性が極めて小さい。製造には成形、焼成、切削など、材料特性に合った加工方法が必要になる。
#2-3. PFAとは何か
#PFAは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルなどからなる共重合体である。
#PTFEと同様に耐薬品性や耐熱性に優れるが、大きな違いは溶融加工しやすいことにある。
#溶融状態での流動性を利用し、射出成形や押出成形によって複雑な部品やチューブを製造できる。
#半導体装置の内部には、長いチューブ、継手、流路部品、バルブなどが存在する。こうした形状を安定して量産するうえで、PFAの加工性は重要である。
#PILLARのスーパー300タイプではPFAとPTFEが使用される。
#一方、PC-CLADはPTFE系フッ素樹脂の低損失特性を利用した製品である。
#同じフッ素樹脂でも、どの特性を重視するかによって製品が変わる。
#FIG-04|PTFEとPFA:骨格は近く、加工は違う
#PTFEはCF₂−CF₂の繰り返しで高い溶融粘度を持つ。PFAはパーフルオロアルキルビニルエーテル由来単位を含む共重合体で、射出・押出成形を使える。
#出典:ダイキン フッ素樹脂 / ダイキン PTFEとPFAの成形性。
#2-4. フッ素樹脂のサプライチェーン
#原料から最終製品までを簡略化すると、次のような流れになる。
#フッ素系原料・化学合成 → フッ素樹脂ポリマー → 配合・成形・加工 → 産業用部品・基板材料
#ダイキン工業(6367)やAGC(5201)などは、フッ素樹脂そのものを手掛ける企業である。
#PILLARは主に、そのような材料を高機能な産業製品へ変換する領域に位置する。
#ただし、PILLARの個別製品について、どの樹脂メーカーからどのグレードを調達しているかは、公表資料から特定できない。
#なお、フッ素樹脂はPFASをめぐる国際的な規制議論とも関係する。規制対象や例外、移行期間は地域・用途ごとに異なり、すべてのPTFE・PFA製品が直ちに使用禁止になるわけではない。
#それでも、今後の環境規制、代替材料の開発、製造工程での排出管理は、フッ素樹脂を扱う企業のリスク要因となる。
#第3章 Wet Process――半導体はなぜ何度も洗われるのか
#3-1. 半導体製造は「形成」と「除去」の繰り返し
#半導体は、シリコンウェハーの上に材料を積み重ね、パターンを形成し、不要な部分を取り除く工程を何度も繰り返して作られる。
#代表的な工程には、成膜、リソグラフィ、エッチング、イオン注入、CMPなどがある。
#しかし、これらの工程を終えた表面が、そのまま次の工程へ進めるとは限らない。
#微粒子、金属汚染、有機物、加工後の残留物などが表面に残る場合があるからだ。
#そこで使用されるのがWet Process(湿式工程)である。
#Wet Processは、液体を使った表面処理の総称であり、半導体製造フローのさまざまな場所に存在する。
#3-2. Wet Processの主な種類
#代表的な洗浄方式として、SC-1/APM、SC-2/HPM、SPM、DHFなどがある。
#例えば、SC-1は粒子・有機汚染の除去、SC-2は金属汚染の除去に使用される洗浄系である。
#一方、希フッ酸(DHF)は酸化シリコンなどを除去する目的で使用される。
#重要なのは、洗いたい物質と、残したい材料が異なれば薬液も変わるという点だ。
#3-3. 製造フローのどこで使われるのか
#GAAトランジスタ、3D NAND、HBM、ハイブリッドボンディングなどでは、表面の構造が複雑になり、洗浄によって必要な構造を傷つけないことが重要になる。
#ただし、微細化によってすべての湿式処理が増えるとは限らない。高選択性が必要な一部工程では、ドライ方式への置換も進む。
#FIG-05|Wet Processは、製造フローの各所にある
#FEOL、MOL、BEOLの各工程で湿式処理が使われる。3D NAND、DRAM・HBM、先端パッケージは別の対象区分であり、FEOLの後へ順番に並ぶ工程ではない。
#出典:SCREEN 半導体洗浄方式 / PILLAR スーパー300 P-U。
#3-4. 枚葉式とバッチ式
#半導体洗浄装置は、大きく枚葉式とバッチ式に分かれる。
#枚葉式洗浄装置は、ウェハーを1枚ずつ処理する方式である。処理条件を細かく制御しやすく、微細構造や高い清浄度が要求される工程で重要になる。
#バッチ式洗浄装置は、複数のウェハーをまとめて薬液槽へ浸す方式である。大量のウェハーを一括処理することで、生産効率を高められる場合がある。
#代表的な装置メーカーには、SCREENホールディングス(7735)、東京エレクトロン(8035)、Lam Research、ACM Research、芝浦メカトロニクス(6590)などがある。
#その装置内部では、薬液タンク、ポンプ、フィルター、バルブ、チューブ、継手が組み合わされる。
#PILLARが強みを持つのは、このうち薬液の輸送・接続を担う高純度流体制御の領域である。
#FIG-06|1枚ずつ処理するか、まとめて浸すか
#枚葉式は一枚のウェハーへ薬液を供給し、回転などで条件を制御する。バッチ式は複数枚を薬液槽で同時処理する。模式図は一般的な方式を表し、特定装置の内部構造ではない。
#出典:SCREEN 半導体洗浄方式 / PILLAR スーパー300 P-U。
#第4章 スーパー300タイプ――小さな継手の高い技術的価値
#4-1. 継手とは何か
#継手は、配管やチューブを接続するための部品だ。
#半導体洗浄装置では、薬液を保管するタンクからウェハー処理チャンバーまで、多数の流路が存在する。
#例えば、次のような経路である。
#薬液タンク → ポンプ → フィルター → バルブ・流量制御 → 洗浄チャンバー → 回収・排液
#実際には配管が分岐し、温調、濃度制御、再循環などの経路も設けられる。
#この配管同士や機器との接続箇所に、継手が使用される。
#普通の水道設備であれば、水を漏らさずに運ぶことが中心的な課題になる。
#しかし半導体製造では、それに加えて、薬液を汚染しないことが重要だ。
#FIG-07|薬液供給の各接続点に、継手がある
#薬液タンクからポンプ、フィルター、バルブ、チャンバー、回収・排液へと流れる。装置によって再循環や温調も設けられる。丸印は接続点の例で、実際の継手数ではない。
#出典:PILLAR スーパー300 P-U / PILLAR 事業内容。
#4-2. スーパー300タイプの仕様
#PILLARの主力製品群の一つが、スーパー300タイプ ピラーフィッティング Pシリーズである。
#公式製品情報に記載されたユニオン型の主な仕様は次のとおりだ。(PILLAR:スーパー300タイプ)
#200℃と0.7MPaは個別に示された上限値であり、両方の最大条件で同時使用できるという意味ではない。実際の許容圧力は温度などによって変わるため、設計時には温度―圧力条件を確認する必要がある。
#製品には直線接続用のユニオンだけでなく、配管を曲げるエルボ、分岐させるティーなどがある。
#4-3. 独自のシール構造
#スーパー300タイプの価値は、樹脂材料だけではない。
#チューブを密封する接続構造にある。
#代表的な構成要素は、継手本体、スリーブ、ユニオンナット、ゲージリングだ。
#スリーブをチューブへ圧入し、ナットで接続部を固定する。ゲージリングは、締め付け状態を作業者が確認するための仕組みとして機能する。
#重要なのは、軸方向と径方向の密封力を組み合わせる設計である。
#樹脂は温度によって膨張・収縮し、長期間の応力によって変形する場合もある。こうした条件で密封状態を維持するには、単純に強く締めるだけでは不十分だ。
#スーパー300タイプは、独自のシール構造によって安定した密封性と施工品質の再現性を狙っている。
#FIG-08|スーパー300:部品の役割を分けて見る
#本体、スリーブ、ユニオンナット、ゲージリングの役割を再作図。ゲージリングは流路の直列部品ではなく外側の締め付け管理部材。カタログ例では本体PFAまたはPTFE、スリーブ・ナットPFA、リングETFE。
#出典:PILLAR スーパー300 P-U / PILLAR 半導体・液晶プロセス用カタログ PPLC 9642AF。
#4-4. 半導体製造で重要な5つの性能
#第一は耐薬品性。
#半導体の湿式処理では酸・アルカリなどが使用される。部材が薬液によって劣化すれば、漏液や汚染の原因になる。
#第二は低汚染性。
#継手から微粒子や金属成分などが混入すると、洗浄液がウェハーを汚染する経路になってしまう。
#第三は耐熱・耐圧性。
#温度変化や液体の圧力に対して安定した密封性能を維持する必要がある。
#第四は流路設計。
#継手内部の段差や曲がりによって圧力損失、流れの乱れ、気泡などが生じる場合がある。
#第五は施工品質。
#部品が高性能でも、作業者によって締め付け状態が大きく変われば品質が安定しない。
#PILLARはこれらを材料・形状・施工構造の組み合わせで解決しようとしている。
#FIG-09|軸方向と径方向から、シールを支える
#公開カタログで説明されるスリーブ先端と本体溝の接触、軸方向・径方向のシール作用を簡略化。温度変化・クリープは一般的な樹脂挙動であり、図の矢印は解析応力ではない。
#出典:PILLAR 半導体・液晶プロセス用カタログ PPLC 9642AF / PILLAR スーパー300 P-U。
#4-5. スイープエルボの意味
#PILLARは、曲がり部分の流路を滑らかにしたスイープエルボも展開している。
#通常の直角エルボと比べ、流体が急激に方向を変えることを抑える設計だ。
#これにより、圧力損失の低減や、条件によっては微小気泡の発生抑制などが期待される。
#半導体では、微細な構造の表面に薬液を均一に接触させる必要がある。
#薬液が十分に接触しなかった部分では、洗浄・エッチングのむらが生じる可能性がある。
#したがって、継手は単に液体を漏らさない部品ではなく、流路全体の性能を支える部品でもある。
#FIG-10|曲がりを滑らかにして、流れを整える
#急な方向転換と大きな曲率のスイープ形状を同じ口径の概念として比較。損失は形状だけでなく、流量・粘度・温度・配管系全体にも依存する。
#出典:PILLAR 半導体・液晶プロセス用カタログ PPLC 9642AF。
#4-6. 世界シェア90%以上という数字
#PILLARは自社の事業説明で、半導体洗浄装置向け継手の世界シェア90%以上と公表している。(PILLAR:事業戦略)
#これは非常に強い市場地位を示す数字だ。
#ただし、正確に理解する必要がある。
#この数字は「半導体洗浄装置向け継手」という特定市場についての会社公表値であり、あらゆる高純度配管部品、バルブ、半導体製造装置用部材を含む90%ではない。
#また、第三者による独立検証値として扱うべきではない。
#それでも、この市場で高い競争力を確立していることは、事業分析上の重要な要素になる。
#半導体製造装置に使用する部品を変更する場合、装置メーカーやユーザー側で密封性、清浄性、耐久性、温度特性などの評価が必要になる。
#一度装置設計へ組み込まれた部品は、簡単に切り替えられない場合がある。
#つまり、技術的な性能と採用実績が、継続的な競争優位につながる可能性がある。
#4-7. SCREENとの実際の取引関係
#PILLARの2026年3月期有価証券報告書では、SCREENセミコンダクターソリューションズ向けの売上高が77.57億円と開示されている。
#全社売上高の13.0%に相当する。
#前年度は96.54億円、構成比16.6%だった。
#これは、PILLARと半導体洗浄装置メーカーの実際の取引関係を確認できる重要な情報である。
#ただし、77.57億円すべてがスーパー300タイプの売上であるとは限らない。開示されているのは顧客別の売上高であり、製品別の内訳ではない。
#また、この顧客別売上の減少は、装置投資サイクルや顧客の調達動向がPILLARの業績へ影響することも示唆している。
#第5章 PC-CLAD――フッ素樹脂から高速信号用基板へ
#5-1. 高周波基板とは何か
#ここからは、PILLARのもう一つの技術領域を見ていく。
#PC-CLADは、フッ素樹脂を使った高周波用の銅張積層板(CCL)である。
#CCLとは、Copper Clad Laminate の略で、絶縁材料の片面または両面などに銅箔を貼り合わせた基板材料を指す。
#まだ電子回路が完成しているわけではない。
#CCLメーカーが絶縁層と銅箔を一体化させ、PCBメーカーが配線パターン、ビア、積層構造などを形成することで、電子機器に組み込まれるプリント配線板が完成する。
#つまり、基本的な流れは次のようになる。
#樹脂・ガラスクロス・銅箔 → CCL → 配線加工・多層化 → PCB → 通信機器・サーバーなど
#PILLARはPC-CLADという完成CCLを販売している。
#PTFE原料を化学合成する会社でも、すべてのPC-CLADを最終PCBまで加工する会社でもない。
#ただし、独自の積層加工技術を保有しており、単なる材料の組立会社ではない。
#FIG-11|CCL、PCB、パッケージ基板は別の階層
#CCLを回路加工してPCBとし、部品を実装する。半導体パッケージ基板はダイとPCBを接続する別階層で、ABFはそのビルドアップ絶縁材料の一例。
#出典:PILLAR NPC-F300AS / 味の素 ABF。
#5-2. なぜ高速信号に低損失基板が必要なのか
#高速な電気信号は、銅配線と周囲の絶縁体で形成される電磁界によって伝搬する。
#このとき、一部のエネルギーは熱として失われる。
#特に信号周波数が高くなるほど、絶縁材料の損失と銅配線の高周波抵抗が重要になる。
#ここで登場するのが、DkとDfという二つの指標だ。
#Dk――比誘電率
#Dkは Dielectric Constant、比誘電率のことで、真空に対して材料がどの程度の誘電特性を持つかを示す。
#配線の特性インピーダンスや、信号の伝搬速度に影響する。
#一般にDkが小さい材料は高速信号に有利な場合があるが、配線の幅・厚さ・絶縁層厚さとの組み合わせが重要になる。
#Df――誘電正接
#Dfは Dissipation Factor、誘電正接のことで、材料内部で電磁エネルギーがどの程度失われるかを表す指標だ。
#同じ周波数、同じ構造などの条件であれば、Dfが小さいほど誘電体損失は小さくなる。
#単純化した伝送線路モデルでは、誘電体損失による減衰定数は、おおむね次の関係で表せる。
#誘電体損失 ∝ 周波数 × √実効比誘電率 × 誘電正接
#例えばDfが0.010から0.001に減れば、ほかの条件が同じ場合、誘電体損失成分を大きく減らせる。
#ただし、完成したPCBの伝送損失が必ず10分の1になるわけではない。
#銅箔の表面粗さ、配線形状、コネクタ、ビア、インピーダンス不整合なども損失を生むからだ。
#FIG-12|Dkは伝搬特性、Dfは誘電体の損失
#均一な誘電体内のストリップライン断面を使い、信号導体、二つの基準導体、電界、磁界を区別。Dkは伝搬速度とインピーダンス設計に、Dfは誘電体でのエネルギー損失に関係する。
#出典:Texas Instruments PCB trace as a wave guide / Texas Instruments 高速PCBの損失。
#FIG-13|高速信号の損失は、Dfだけで決まらない
#誘電体損失と導体損失はエネルギーを熱へ変える。インピーダンス不連続部の反射は入力側へ戻るエネルギーで、吸収損失と同じ現象ではない。いずれも伝送チャネルの品質に影響する。
#出典:Texas Instruments 高速PCBの損失 / Texas Instruments PCB trace as a wave guide。
#5-3. PILLAR PC-CLADの製品性能
#PILLARが公開するPC-CLADの代表品には、以下がある。(PILLAR:NPC-H220A・PILLAR:NPC-F260AS・PILLAR:NPC-F300AS)
#H220Aは呼び厚さ1.0mm、F260AS・F300ASは呼び厚さ0.127mmの測定値である。
#公表仕様の測定条件が完全に同一ではないため、数字の大小だけで完成回路の性能を順位付けすることはできない。
#特にF300ASは、厚さ方向の熱膨張係数が39ppm/℃とされる。
#多層PCBでは、絶縁層の上下を銅めっきした穴で接続する。そのため、温度変化によって基板と銅が異なる量だけ膨張すると、ビアに応力がかかる。
#低熱膨張化は、こうした接続部分の信頼性を高めるために重要になる。
#5-4. PC-CLADの中身
#F300ASの主要構成材料は、次の4つである。
#- フッ素樹脂
- ガラスクロス
- 無機フィラー
- 銅箔
各材料は異なる役割を持つ。
#これは、単にフッ素樹脂に銅箔を貼れば完成するというものではない。
#材料を均一に複合化し、加熱・冷却による寸法変化を制御しながら、銅箔との密着性と低損失性能を維持する必要がある。
#FIG-14|PC-CLADは、四つの材料の複合体
#NPC-F300ASはフッ素樹脂、ガラスクロス、無機フィラー、銅箔から構成される。ガラスと粒子は樹脂の中へ複合化され、銅箔は導体となる。積層数、配合比、粒子種・粒径・分布は製品断面の再現ではない。
#5-5. CCLはどのように作られるのか
#一般的な熱硬化性樹脂系CCLでは、次の工程が使われる。
#① 樹脂配合
#エポキシなどの樹脂に硬化剤、フィラー、添加剤を加え、含浸や塗工に適した状態へ調整する。
#② ガラスクロスへの含浸
#ガラス繊維を織った布へ樹脂を染み込ませる。
#③ プリプレグ製造
#樹脂を半硬化状態にしたシートを製造する。熱硬化性樹脂では、この中間材料をBステージのプリプレグと呼ぶ。
#④ 銅箔との積層
#ガラスクロスに樹脂を含浸した材料と銅箔を重ねる。
#⑤ 加熱・加圧
#積層した材料をプレスし、絶縁層と銅箔を一体化する。
#⑥ 品質検査
#板厚、寸法、銅箔密着性、反り、誘電特性、外観などを検査する。
#⑦ PCBメーカーへ供給
#PCBメーカーが銅箔をパターニングし、必要に応じて多層化、穴あけ、めっきなどを行う。
#ただし、PTFEではこの工程が少し異なる。
#PTFEは一般的なエポキシのように硬化剤によって架橋する材料ではないため、PTFE分散液による含浸、乾燥、焼成、専用の積層・接着条件などを使用する。
#この製造工程の違いが、PTFE系CCLの加工難易度やコストに関係する。
#FIG-15|同じCCLでも、樹脂で製造工程が変わる
#熱硬化性樹脂系は配合、含浸、Bステージ化、銅箔との積層、加熱硬化を経る。PTFE系では分散液、乾燥、焼成、専用の接合条件などを用いる。個々の製品の固有工程・条件は示さない。
#出典:PILLAR 積層板製造特許 JPH0790626B2 / PILLAR NPC-F300AS。
#5-6. 無機フィラーとは何か
#フィラーは、樹脂の中へ混ぜ込む充填材料のことだ。
#単に樹脂の量を減らす目的だけではなく、完成品の物性を調整するためにも利用される。
#例えばPTFEは非常に低損失だが、樹脂単独では熱膨張や剛性が設計上の問題になる場合がある。
#そこで無機フィラーを加え、熱膨張や機械特性を変化させる。
#ただし、フィラーを増やせば必ず性能が向上するわけではない。
#粒子の誘電特性、粒径、形状、樹脂との界面、分散の均一性によって、損失や加工性が悪化する場合もある。
#配合技術は、CCLメーカーの重要なノウハウになる。
#FIG-16|フィラー配合は、熱膨張と加工性の両立
#無機フィラーはCTEなどを調整するが、凝集や界面、誘電特性、銅箔への密着、加工性とのバランスが必要。樹脂と銅のZ方向膨張差はビアへ負荷をかける。F300ASの公表厚さ方向CTEは39ppm/℃。
#出典:PILLAR NPC-F300AS / PILLAR 積層板製造特許 JPH0790626B2。
#5-7. なぜPILLARが基板を作るようになったのか
#PILLARがフッ素樹脂基板の研究を始めた時期は、スーパー300タイプの製品化よりも早い。
#1993年6月3日には、日本ピラー工業がフッ素樹脂を使った積層板製造方法の特許を出願している。(PILLAR:積層板製造特許)
#特許では、PTFEを含浸させた基材と銅箔を接着し、熱膨張や寸法安定性、スルーホール信頼性などを改善する技術が扱われている。
#つまり、PILLARの基板技術は、近年のAIブームを受けて突然始まったものではない。
#長年のフッ素樹脂材料技術を、新しい用途へ展開してきた歴史がある。
#特に興味深いのは、フッ素樹脂の性質が、製品によって長所にも課題にもなることだ。
#継手では、耐薬品性や低汚染性が強みになる。
#一方、CCLでは、低誘電損失が強みとなるが、物が付着しにくい性質は銅箔との接着を難しくする場合がある。
#同じ材料を扱っていても、解決しなければならない技術課題は異なる。
#PILLARはフッ素樹脂を売るだけではなく、その材料が持つ特性を異なる産業の製品へ変換する企業なのである。
#第6章 PTFE、MEGTRON、ガラスクロス、銅箔――高速基板材料の競争
#6-1. PTFE以外の主要樹脂
#高速基板や半導体パッケージでは、PTFEだけでなく多くの樹脂が使われる。
#ここでは、樹脂そのものの誘電特性と、完成したCCLの特性を分ける必要がある。
#例えばデンカ(4061)のSNECTONは、炭化水素系の低誘電樹脂として、Dk 2.2〜2.3、Df 0.0007以下という材料特性を公表している。
#しかし、このDfをそのままMEGTRON 8やPC-CLADの完成CCLの値と比較することはできない。
#ガラスクロス、銅箔、フィラー、樹脂配合などが異なるためだ。
#デンカは2026年5月にSNECTONの専用製造設備の完成を発表した。今後は、完成CCLへの採用と量産化が重要な確認事項になる。
#FIG-17|基板材料は、用途と製造要求から選ぶ
#RF用PTFE系、高速多層CCL用熱硬化性材料、一般PCB用エポキシ系、パッケージ向けBT・ABF、柔軟回路向けPI・LCPを用途で整理。PC-CLADとMEGTRONの公表Dk・Dfは測定条件が異なる。
#出典:PILLAR NPC-F300AS / Panasonic MEGTRON8 8S / 味の素 ABF。
#6-2. MEGTRONとは何か
#MEGTRONは、パナソニック インダストリーが展開する低伝送損失の高性能多層基板材料ブランドだ。
#主な用途は、高速サーバー、ネットワークスイッチ、ルーターなどである。
#MEGTRON 8は、PTFE系ではなく、独自に設計された熱硬化性樹脂系材料を使用している。
#最大の特徴は、非常に低い伝送損失と、高多層PCBとしての製造適性を両立することにある。
#高速サーバー基板では、単純にDfが低ければよいわけではない。
#数十層の絶縁層と銅配線を積層し、穴あけ、めっき、位置合わせを繰り返す必要がある。
#材料の寸法変化が大きかったり、銅箔が剥がれやすかったりすれば、高度な多層基板を安定して量産できない。
#そこで、樹脂、ガラスクロス、銅箔の組み合わせが重要になる。
#6-3. MEGTRON 8と8Sの特性
#パナソニック公表の代表値を比較する。(パナソニック:MEGTRON 8/8S)
#いずれもUltra-low Dfガラスクロスタイプの代表値である。
#MEGTRON 8Sでは、Dfを同水準に維持しながら熱膨張を抑えている。
#これは、高多層化によって増えるビアやスルーホールの信頼性に関係する。
#一方、PILLAR NPC-F300ASはDk 3.00、Df 0.0012、厚さ方向CTE 39ppm/℃を公表している。
#数字だけを見ると近い材料特性を持っている。
#ただし、測定周波数、試験片厚さ、試験方法が一致していないため、同じ条件の優劣を示す比較ではない。
#6-4. AIDC内部ではどちらが有利か
#AIサーバーや大型ネットワークスイッチの高多層PCBでは、現状、MEGTRONのような低損失熱硬化性樹脂系の製品に、より明確な量産需要と設備投資が確認できる。
#パナソニックはMEGTRONの生産能力を、2025年度から5年間で約2倍にする計画を公表している。(パナソニック:MEGTRON増産計画)
#中国・広州工場では約75億円を投じ、2027年4月から新ラインを稼働させる計画だ。(パナソニック:広州工場増産)
#タイ・アユタヤでも約170億円の新工場投資が進められている。
#これに対して、PILLARのPC-CLADについては、AIDC向けの月産数量、工場能力、売上額を確認できない。
#したがって、現在のAIDC向け高多層PCB市場では、MEGTRON系の方が量産拡大を具体的に確認できると考えられる。
#ただし、これはPTFEそのものの電気特性が劣ることを意味しない。
#PTFEは高周波・ミリ波の特定用途で優れた材料特性を持ち、要求される加工構造が異なる市場で競争力を発揮する。
#6-5. PTFE系CCLにもガラスクロスが入る
#ガラスクロスは、細いガラス繊維を織った布状の材料である。
#基板の樹脂層に使用し、機械的な補強と寸法安定性を与える。
#日東紡績(3110)は、この分野で重要な企業の一つだ。(日東紡績:ガラスクロス)
#日東紡公表のガラス材料測定例では、1GHzにおけるDk・Dfは次のとおりである。
#ガラスクロスそのものの特性は、完成CCLの値とは異なる。
#また、Tガラスは主に低熱膨張と剛性が強みであり、必ずしもNEガラスより低損失というわけではない。
#PTFE系基板でもガラスクロスを補強材として使えるため、日東紡のような企業が技術的な供給候補になる。
#ただし、PILLARのPC-CLADに日東紡のガラスクロスが実際に採用されているか、採用されている場合にどの製品グレードかは確認できない。
#ここは推定サプライチェーンと実際の取引関係を混同してはいけない部分だ。
#FIG-18|ガラスは、補強材であり電気特性の一部
#ガラスクロスは繊維束を織った補強材で、配線と織目の位置関係も伝搬に影響する。EとNEのDk・Df例は1GHzのガラス材料値。Tガラスは低CTEと剛性を狙い、低損失の序列とは区別する。
#出典:日東紡 電子材料用ガラスクロス。
#6-6. 銅箔にも種類がある
#CCLの電気信号を運ぶのは銅箔だ。
#高速信号では電流が導体表面付近に集中する「表皮効果」が重要になる。
#銅箔表面の凹凸が大きいと、伝送損失が増える場合がある。
#そのため、低損失樹脂に加え、表面が滑らかな低粗度銅箔が必要になる。
#三井金属(5706)は、高周波基板向けVSP銅箔を展開している。
#2026年8月には、生産能力を月産1,200トンへ拡大する既存計画に加え、さらに月産1,400トン体制へ増強する計画を発表した。(三井金属:VSP銅箔増産)
#この1,400トンは計画上の能力であり、2026年10月時点ですべてが稼働していることを示す数字ではない。
#同社はHVLP5グレード品の量産移行とAIインフラ関連需要の拡大を説明している。
#ただし、三井金属のVSPがPILLAR PC-CLADへ直接供給されていると確認されたわけではない。
#FIG-19|銅箔の粗さと、表面に集まる高周波電流
#表皮効果で高周波電流は導体表面へ偏る。粗い界面は高周波抵抗などに影響する。ED・RAは製造法、VLP・HVLPは粗度、RTFは処理面、キャリア付きは支持構造で、分類軸が異なる。
#出典:Texas Instruments PCB trace as a wave guide / 三井金属 銅箔製品。
#6-7. 材料競争は「樹脂単独」では決まらない
#高速基板の最終性能を決めるのは、樹脂だけではない。
#樹脂 × ガラスクロス × フィラー × 銅箔 × 積層製造工程 × PCB加工
#という組み合わせで決まる。
#低Dfの樹脂を使っても、銅箔の表面が粗ければ導体損失が増える。
#ガラスクロスの織り方が不均一であれば、配線ごとの信号遅延に差が生じる場合がある。
#熱膨張が大きければ、多層PCBのビア接続に応力がかかる。
#そして、材料が高価で加工歩留まりが悪ければ、大量生産されるサーバーでは採用しにくい。
#PTFEとMEGTRONの競争は、Dfだけを比較するものではなく、最終機器の性能・信頼性・価格を決める材料システム全体の競争である。
#第7章 AIDCの内部と外側――フッ素樹脂基板はどこに入るのか
#7-1. まず「基板」の種類を分ける
#AIデータセンターには、異なる役割を持つ基板が存在する。
#特に混同しやすいのが、GPUの直下にある「半導体パッケージ基板」と、サーバーやスイッチの中にある「プリント配線板(PCB)」だ。
#これらは製造工程と使用材料が異なる。
#イビデン(4062)は、主にGPU・CPUなどに使う高性能ICパッケージ基板を製造する企業である。
#一方、PILLARのPC-CLADは高周波用のCCLである。
#両社の製品は電子機器の中で異なる位置にあり、PILLARのCCLがそのままイビデンへ納入されているという関係は確認できない。
#7-2. AIDC内部――高速PCBではMEGTRON系が重要
#GPUやネットワークスイッチの通信速度が上がると、PCB上の信号損失が問題になる。
#112Gbps級から224Gbps級のSerDesへ移行する場合には、より高い周波数成分を低損失で伝送する必要がある。
#このため、低Dfの絶縁材料、低粗度銅箔、精密な配線設計が重要になる。
#MEGTRON 8やその次世代材料は、このような高速多層PCBを対象とする。
#一方、PTFE系基板にも技術的な適用可能性がある。
#ただし、AIサーバーの主要PCBがすべてPTFEへ置き換わるという見通しには慎重であるべきだ。
#高多層化と量産性を重視する領域では、熱硬化性の低損失材料が競争力を持つ。
#FIG-20|AIDCから、パッケージと材料まで拡大する
#ラック、サーバー、PCB、GPU・HBMパッケージの階層を示す。図のパッケージはGPUとHBMがインターポーザを介して有機基板へ接続する一般的な例で、製品によって構造は異なる。PC-CLADの特定機器採用を示さない。
#出典:味の素 ABF / Panasonic MEGTRON8 8S / PILLAR NPC-F300AS。
#7-3. AIDC内部――光トランシーバーではPTFEにも機会がある
#PILLARのPC-CLADは、公式用途として「高速光電気変換器」を挙げている。
#ここで重要なのは、PTFE系基板が光そのものを運ぶのではないという点である。
#光トランシーバーでは、スイッチASICなどから受け取った高速電気信号を、光信号へ変換する。
#その前後には高速な電気配線が必要になる。
#PTFE系基板は、この電気信号経路に使用される可能性がある。
#ただし、PILLAR製品が特定の800G/1.6T光トランシーバーへ採用されているかは確認できない。
#「用途が存在する」と「大量採用が確認できる」は別の情報である。
#7-4. CPOが進むとどう変わるか
#CPOは、Co-Packaged Optics の略である。
#従来の着脱式光トランシーバーでは、ASICから光モジュールまで高速電気信号をPCB上で運ぶ。
#CPOでは、光エンジンをASICの近くに配置し、電気信号が長い距離を伝わる必要性を減らす。
#これは、低損失基板メーカーにとって一方向の追い風とは限らない。
#光接続によってネットワーク容量が拡大すれば、光エンジンや関連基板の需要が増える可能性がある。
#一方、長い高速電気配線を削減できれば、その部分で必要だった低損失PCB材料の使用量が減る可能性もある。
#したがって、光化の影響は、
#増える光接続機器の数量 − 短縮される高速電気配線の材料需要
#という二つの方向から考える必要がある。
#CPOの普及によって、ABF、RDL、シリコンフォトニクス、光エンジン周辺部材など、別の材料の重要性が増す可能性もある。
#7-5. AIDCの外側――基地局・高周波アンテナ
#PILLARのPTFE系基板にとって、特に技術的な適合性が分かりやすい領域が無線通信である。
#例えば5G/6G基地局の内部には、アンテナ、RFフロントエンド、無線制御装置、デジタル処理基板などが存在する。
#このうち、アンテナやRF回路は、高周波の電磁波を直接扱う。
#PTFE系材料は、低い誘電損失、低吸水性、誘電特性の安定性が評価される場合がある。
#PILLARはPC-CLADの用途として、5Gスモールセル、アンテナ、バックホール無線を挙げている。
#ただし、基地局のすべての基板がPTFE系になるわけではない。
#デジタル処理部分にはMEGTRONのような高速多層PCB材料が適し、RF部分ではPTFE系、炭化水素系、セラミック系などが競争する。
#FIG-22|CPOは、光変換点をASICの近くへ移す
#着脱式モジュールではASICから基板端まで高速電気信号を運ぶ。CPOでは光エンジンを近接配置する。光接続数や周辺材料が増える可能性と、高速電気配線の面積が減る可能性の両面を考える。
#出典:Broadcom CPO Ethernet switch platform / Coherent 光トランシーバーの構成 / PILLAR NPC-F300AS。
#7-6. 6Gが始まればPTFEが急増するのか
#6Gでは、通信速度の向上とともに高周波数帯の利用が注目されている。
#周波数が上がるほど、アンテナや配線の損失、材料の誘電特性が重要になる場合がある。
#その意味ではPTFEに成長機会がある。
#ただし、6Gがすべてミリ波やテラヘルツ帯を使用するわけではない。広い地域をカバーする中帯域も重要になる。
#また、基地局投資は周波数割当、通信事業者の投資計画、設備価格、通信需要によって決まる。
#したがって、6G契約数の増加を、そのままPTFE基板の需要増加に置き換えることはできない。
#必要なのは、実際の高周波アンテナ数、基板面積、使用する材料、採用メーカーの確認である。
#7-7. 自動車レーダー・衛星・長距離通信
#PTFE系基板は自動車のミリ波レーダーにも適している。
#PILLAR自身が衝突防止レーダーや周辺監視レーダーを公式用途として掲げている。
#また、PTFE系高周波材料は、衛星通信やマイクロ波機器などでも技術的な適用領域を持つ。ただし、これはPTFE系材料一般の話であり、PILLARの特定製品が衛星通信システムへ採用されていると確認したものではない。
#光通信についても、光ファイバーそのものは主に石英ガラスであり、PTFE系CCLとは別の材料だ。
#PTFEが関係するのは、光電変換の前後に存在する電気回路などである。
#7-8. AIDCの外側には半導体工場もある
#もう一つ重要な区分がある。
#AIデータセンターを建設するためには、GPU、HBM、ネットワークASICなどを製造する半導体工場が必要になる。
#この製造工程では、PILLARのスーパー300タイプのような継手が活躍する。
#つまり、PILLARのAIサプライチェーンとの関係は二つある。
#製造側: 半導体洗浄装置向け継手が、先端半導体の製造設備を支える。
#使用側: 低損失フッ素樹脂基板が、高周波通信や一部の高速電気配線を支える。
#現時点の事業規模と実績では、前者の重要性が高い。
#後者は、今後の製品採用と量産拡大を追うべき成長領域である。
#第8章 競合、設備投資、TAM、成長可能性とリスク
#8-1. PILLARの競合は製品によって変わる
#PILLARを分析する際、継手とCCLを同じ競争市場として扱うべきではない。
#Entegrisは、継手だけでなく高純度フィルター、バルブ、容器、化学材料など幅広い製品を持っている。
#PILLARが特定の流体制御部品に深い技術と市場地位を持つのに対し、Entegrisは汚染制御の広い領域を事業化している。
#一方、CCL市場ではRogersやPanasonic、Elite Materialなどと、電気特性、製造適性、価格、顧客認定を競うことになる。
#FIG-23|供給の候補と、確認済みの取引を分ける
#PILLARからSCREENへの顧客別売上は公表取引。ダイキン・AGCの樹脂、日東紡のガラス、三井金属の銅箔は関連する供給候補例で、PILLARへの直接供給は未確認。CCLからPCB、機器へ進む灰色の線は一般的な加工段階で個別取引ではない。
#出典:PILLAR 有価証券報告書 / PILLAR 統合報告書2026 / PILLAR NPC-F300AS / 日東紡 電子材料用ガラスクロス / 三井金属 銅箔製品。
#8-2. 直接確認できる市場規模
#市場規模を考えるときは、対象とする製品範囲を区別する必要がある。(ACM Research:2025年10-K・Prismark:PCB市場・PCEA:CCL市場)
#これらの金額は足し合わせるものではない。
#PCB市場は完成したプリント配線板全体の市場であり、CCLはその材料市場に位置する。
#また、ウェハー洗浄装置市場の金額は装置メーカー側の市場規模であり、継手市場そのものではない。
#8-3. スーパー300タイプのTAMをどう考えるか
#PILLARの継手市場を推定するには、以下の情報が必要になる。
#年間の洗浄・湿式処理装置出荷台数 × 装置1台当たり継手数 × 継手平均販売単価 × PILLARの採用比率
#さらに、既設設備の保守・交換需要を別に考える必要がある。
#ところが、装置1台当たりの継手数は、機種、チャンバー数、薬液系統、配管設計によって異なる。
#製品単価も口径や形状、仕様、納入条件によって変わる。
#そのため、洗浄装置市場が73億ドルだから、その一定割合を自動的にPILLARの売上へ割り当てるという計算は適切ではない。
#PILLAR自身の電子機器関連事業の売上・受注、主要顧客の装置受注、製品投入や設備能力を組み合わせて分析する方が現実的である。
#FIG-24|大きな市場を、そのまま売上へ換算しない
#洗浄装置市場と継手市場、PCB市場とCCL市場、PTFE系市場とPC-CLADの売上は異なる。図の面積は金額比ではない。売上形成に必要な数量、材料使用量、採用率、単価と、実際の監視KPIを整理する。
#出典:PILLAR 2027年3月期1Q説明資料 / PILLAR NPC-F300AS / PILLAR 統合報告書2026。
#8-4. PC-CLADのTAMはさらに分ける必要がある
#世界CCL市場が大きくても、そのすべてがPTFE系CCLの市場ではない。
#一般的なFR-4、特殊エポキシ系、多層高速CCL、フレキシブルCCL、RF用PTFE基板などが含まれる。
#さらにPTFE系でも、レーダー、基地局、バックホール、高速光電変換などで要求仕様が異なる。
#したがって、PC-CLADの成長余地を考えるには、
#最終機器の数量 × 機器当たりの基板面積 × PTFE系材料の採用率 × 材料単価
#という形で、市場を用途別に分ける必要がある。
#公開されているPC-CLAD F300ASの基板サイズには457×610mm、534×610mmなどがある。
#ただし、これは販売・加工される基板材料の外形寸法であり、最終機器1台に何枚使うかを示すものではない。
#基板の取り数、加工歩留まり、層数、実際の材料構成が分からなければ、AIDCラック当たりの使用面積を正確に推定することは難しい。
#8-5. 量産能力の違い
#主要企業の公表値を比較すると、量産に向けた投資の進展度合いが異なることが分かる。
#ここでは投資額と生産数量、原材料能力と完成基板能力を混同しないことが重要だ。
#例えば、銅箔が月産何トン作れるか分かっても、完成PCBを何枚製造できるかは、その厚さ、基板サイズ、層数、加工歩留まりによって変わる。
#同様に、PILLARが900億円の成長投資を計画していても、その全額が高周波CCLへ投じられるわけではない。
#8-6. One2030と海外展開
#PILLARの中期経営計画「One2030」では、2030年度に以下を目指している。(PILLAR:One2030)
#2026〜2030年度の成長投資計画は合計900億円。
#内訳は設備投資500億円、研究開発200億円、M&A200億円である。
#電子機器関連事業では、グローバルな生産・販売能力の強化に加え、フッ素樹脂基板や免震事業の成長も掲げている。
#また、中国での生産能力増強やマレーシアへの展開など、供給拠点の地理的な分散も進めている。
#これは半導体装置メーカーが製造拠点を世界各地へ分散させる流れにも関係する。
#ただし、現地工場の完成は、直ちに製品出荷や利益の増加を保証するものではない。顧客認定、量産立ち上げ、稼働率、歩留まりを確認する必要がある。
#8-7. 企業としての強み
#PILLARの強みは、大きく5つに整理できる。
#第一に、長期間蓄積された材料技術。
#フッ素樹脂の加工、シール設計、密封、摩耗、流体制御などの技術を異なる市場へ展開できる。
#第二に、高いシェアを持つ製品領域。
#半導体洗浄装置向け継手について、会社は世界シェア90%以上と説明している。
#第三に、装置メーカーとの取引実績。
#SCREENへの販売実績は有価証券報告書で確認できる。
#第四に、高い収益性。
#2026年4〜6月の電子機器関連事業は、32.6%の営業利益率を記録した。
#第五に、財務基盤。
#2026年6月末の自己資本比率は76.1%であり、大規模な成長投資を進めるうえで重要な財務余力がある。
#8-8. リスクも明確に存在する
#一方で、主なリスクは以下のように整理できる。
#特に注意したいのは、PILLARの既存事業の競争力が高いことと、PC-CLADが将来大きな成長事業になることは別の話だという点である。
#PC-CLADには技術的な成長機会があるが、採用先、販売数量、単独売上高、製造能力は十分に開示されていない。
#そのため、AIデータセンター市場全体の急拡大を、そのままPC-CLADの売上予測へ反映させるべきではない。
#8-9. 今後追うべき指標
#PILLARを継続的に分析する場合、次の情報が重要になる。
#次回のPILLARの決算発表は、2026年11月12日に予定されている。
#受注残高がさらに積み上がるのか、電子機器関連の利益率が高水準を維持するのか、増産投資による費用増を吸収できるのかが重要な確認点になる。
#結論――PILLARの本質は、フッ素樹脂を用途へ変換する力にある
#PILLARを単なる半導体洗浄装置向け継手メーカーとして見ると、その技術的な歴史を十分に捉えられない。
#同社は、100年以上にわたり流体を漏らさない技術を磨いてきた。
#その過程でフッ素樹脂の加工技術を蓄積し、半導体製造装置向けの高純度継手へ進出した。
#さらに、同じ材料が持つ低誘電損失という別の特性を利用し、高周波用の銅張積層板を開発した。
#これらは異なる製品であり、要求される性能も異なる。
#半導体洗浄装置向け継手では、薬液を汚染せず、漏らさず、安定して流すことが求められる。
#高周波CCLでは、電気信号を大きく損失させず、配線と基板の信頼性を維持することが求められる。
#しかし、両方とも材料の特性を理解し、その長所を引き出しながら、加工上の課題を克服する技術に支えられている。
#そして2026年現在、二つの事業の位置付けは異なる。
#半導体洗浄装置向け継手は、高いシェアと実際の受注・売上・利益が確認できる確立した事業である。
#一方、PC-CLADは5G/6G、レーダー、光電変換、高速サーバーなどに関係する製品だが、AIDC向けの量産採用数量や単独の収益規模は不明だ。
#高速サーバー用の高多層PCBでは、MEGTRONに代表される熱硬化性低損失材料が、量産性と性能の両立によって明確な成長機会を持っている。
#PTFE系基板は、それとは異なる高周波・ミリ波・特定の光電変換周辺などで競争力を発揮する可能性がある。
#将来、光接続が進むとしても、すべての低損失基板需要が増えるとは限らない。高速電気配線が短くなり、材料需要の構造自体が変化する可能性があるためだ。
#それでも、半導体を製造する工程の高度化と、完成した電子機器の通信性能の高度化は、今後も材料企業に新しい技術課題を与え続けるだろう。
#PILLARは、その二つの異なる変化を、共通する材料技術を通じて事業化している。
#半導体を洗う液体と、AIシステムをつなぐ電気信号。その両方にフッ素樹脂の技術が関わっている。
#この構造こそが、PILLARという企業の最も興味深い部分である。
#注:会社予想、装置市場規模、CCL市場規模、製品仕様などは各資料の公表時点に基づく。会社が公表する市場シェアは独立した第三者検証値とは区別する。PILLARのPC-CLADに関する個別顧客、調達先、生産能力、AIDC向け売上については、確認できない情報を推定で補っていない。本稿は公開情報に基づく産業・企業分析であり、個別銘柄の売買を推奨するものではない。
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